「全く、どうしてこの辺はこんなにわかりにくいんでしょう」
サーシャの家を前にして、自然と溜め息が出てしまいます。
あの草原でのやりとりの後、お互いの家の位置を教えあって別れたのですが、悪魔が生活しているこの辺は、わたし達の住む天使区画とはあまりにも違いすぎていました。
道にはゴミが散らばっていて、どこもかしこも饐えたような異臭が漂っているのに、誰もどうにかしようとは思わないんでしょうか。
おまけに、どう考えても思いつくまま家を建てているせいで、道がわかりにく過ぎます。
直線距離にしたらそれほどでもないですから、普段なら飛んでしまえば問題なかったはずなんですけど。
「飛べないって、こんなに不便だったんですね……」
実際、道がわかりにくいままで放置されていたり、ゴミが散らばったままになっている原因の1つは、そこにあるんでしょう。
もちろん、同じく飛べる天使区画があんなに綺麗に整っているんですから、飛んでしまえばいいとか以前に悪魔達のだらしない性格が最大の原因であることは言うまでもありませんけど。
だいたい、サーシャの着てるこの服だって……ていうかこれ服なんでしょうか。
こんなので人前に出るなんてどうかしてます。
「これだから悪魔なんて嫌いなんです」
…………とと、いけませんいけません、思わず本音が漏れてしまいました。
こんなこと誰かに聞かれたら大変です。
はなはだ不本意ですけど、今はまだ誰にもバレないように普通の悪魔の振りをしていないと。
幸いにもサーシャは1人暮しで同居人もいないらしいですから、とりあえず今日は早くお風呂に入って、さっさと寝てしまいましょう。
鉛のように全身に圧し掛かる疲労感に急かされるように、そんなことを考えてわたしはドアを開けました。
けれど――、
「うわぁ……」
次の瞬間目前に突き付けられたその部屋の惨状に、それを実行することができないことを思い知らされたんです。

「どうしたら、こんな部屋で生活できるんですか……?」
呟いてみても答えはありません。
この部屋には今はわたししかいないんですから当たり前です。
でも、そんなことは百も承知で、それでも口に出さずにはいられないほど、部屋の中は散らかっていました。
散らかっているというより、ここまで行けば荒廃していると言った方が適切かもしれません。
ゴミにしか見えないものが散乱し、床が見える場所がほとんどないぐらいなんですから。
「もう、何から何まで最悪な日です……」
あまりの光景にしばらく呆然と立ち尽くし、それでも気を取り直して動き始めました。
「お風呂は後ですよね……」
一刻も早く汗とか土ぼこりとかを洗い流したかったんですけど、部屋の片付けを後に回そうものなら二度手間になるのは火を見るより明らかでした。
まずは入口の前にあるガラクタをどかそうと思ってその下に手を差し入れ――、
「ひぅっ!?」
指先に触れた異様な感触に、変な声を出してしまいました。
「な、ななななななな!?」
反射的に引いた手の先には、薄緑色のゲル状の物体がべったりと纏わりついています。
ただでさえ生理的な嫌悪感を催させるその感触に気が遠くなりそうでした。
けれど、それ自身が生きているかのようにうぞうぞと肌の上を這い始めたとなれば、のんびりしている暇もありません。
「やだ、気持ち悪いですっ!」
慌てて手を振り、そのゲル状の何かを振り払おうとします。
何度か手を振り回しているとようやく遠心力に負けたその何かは手を離れ、壁にべちゃりと緑の花を咲かせてくれました。
「うぅ……もう、やですぅ……」
とはいえ、本体は振り払えても、手にはまだ薄緑色の得体の知れない粘液が薄くではありますけど纏わりついています。
そのことに泣きそうになりながら、それでも掃除を再開させないわけにもいきません。
とにかく、せめて横になるだけのスペースだけでも確保しなければ寝ることもできないんですから。
とは言っても、さすがにもう1度ガラクタの下に手を入れるだけの勇気なんてあるはずがありません。
行儀の良い行為ではないと思いましたけど、足の先でさっき持ち上げようとしたガラクタを脇にどけました。
すると、そのガラクタの下から姿を現したのは、これまた見慣れない棒状の物体だったんです。
さっきのあれがそこにいたせいか、薄緑の粘液に塗れているそれを恐る恐る摘み上げたわたしの顔に、徐々に徐々に血が上ってきます。
「こ、これって……」
片側が膨らんでいるそれが、わたしの本当の体が持っているあれを模したものであることくらいは、さすがにわたしでもわかってしまいます。
となると、その使い道も……。
「ふ、不潔です……」
サーシャがこの部屋でその行為に耽っている姿を一瞬だけ想像してしまい、さっきのスライム同様慌ててそのイメージを頭の中から押し出します。
そしてそんなことを想像してしまった自分に対して込み上げてくる嫌悪感をも振り切って作業を再開しようとした、その時でした。

「よお、サーシャ」
いきなりすぐ背後から声をかけられて、わたしは心臓が止まるかと思いました。
普段なら誰かが近づいてくればそれを感じ取ることくらい可能ですが、今は目の前のこれに気を取られていたせいでうっかりしていたんです。
「入口で何やってんだ?」
悪魔にはわたし達と違って性別があるんですが、恐る恐る振り返ると、そこにいたのは声から想像した通り男の人でした。
黒い羽や尻尾など、外見的な特徴はサーシャと同じタイプです。
悪魔の外見は人によって千差万別で、中にはものすごい人もいますから不安だったんですが、その点では助かりました。
ていうか、かなり整った顔立ちです。
なぜか胸が高鳴って、……って、これはいきなり声をかけられて驚いたせいです。
絶対そうですそうなんです。
「ん、何か隠しんてんのか?」
彼の興味が、今は後ろに回しているわたしの手の中に移ってしまったみたいでした。
そこにはさっき見つけたあれが乗っています。
こんなものを持っているところを見られてはととっさに隠したんですが、ちょっとあからさますぎたかもしれません。
ど、どうしましょう……。
「なんか変だぞ、お前」
何て言ったらいいのかわからず黙りこくったわたしを訝しむように、彼が部屋に入ってきました。
絶体絶命です。
そもそもわたしは彼が誰なのかすら知りません。
かと言って、あなたは誰ですかなんて聞いたら、わたしがサーシャじゃないことが1発でわかってしまいます。
「あ、あの、ええと……」
思わず足元も見ず一歩下がってしまったのが間違いでした。
「ひきゃぁ!?」
靴の裏がずるりと滑って、バランスを崩してしまったんです。
足が高く振り上がり、反動で上半身が後ろに投げ出されたわたしの脳裏に、さっきまで目の前にあった床の惨状が過りました。
最悪なんてものではありません。
あんな所に倒れたら一生もののトラウマになることは100%確実でした。
けれど足をもう床を離れてしまっていますし、今のこの体では羽だけで体重を支えることはできません。
もう、どうしようもありませんでした。
覚悟して目を瞑ったわたし。
でも、次の瞬間そのわたしの体を受け止めてくれたのは汚れきった床ではなくて、がっしりとした彼の両腕でした。
「何やってんだよ……」
呆れたような声。
ゆっくり目を開けると、すぐそこに彼の顔がありました。
心臓がまた1つ大きく鼓動を打ちます。
で、でもこれはコケそうになったからで、決して彼がどうこうというわけではなくて……。
なのに、彼の視線がわたしの胸元に注がれていることに気がついて、なんだか顔が熱くなります。
「ったく、今更そんなもんで恥ずかしがるタマかっつーの」
さらに一回り呆れたような声音。
「……え?」
彼が何を言っているのかわからず思わずその視線を追ってみると、わたしの胸の前にはさっき見つけたあれをしっかりと握り締めているわたしの両手が――。
「え、えと、あのこれは……」
「水臭えじゃん、溜まってんなら呼べっつーの」
「――んぷ!?」
次の瞬間、ただでさえ近くにあった彼の顔が、もうこれ以上ないってくらいさらに近くまで来ていました。
唇に触れる、少し固い彼の感触。
視界いっぱいに広がった彼の顔。
な、なんでしょう、この状況は。
わたしは、いったい、なにを、シテイルノデショウカ。
オシエテ、カミサマ――。

「おい、大丈夫か?」
ぺちぺちと頬を叩かれています。
飛んでいた意識がその刺激に誘われるように浮かび上がってきて――、
「ん、んん……きゃっ!」
瞼を上げると、やっぱり目の前には彼の顔をあって、一瞬パニックになったわたしはあれを持ったままの手で彼を押し退けました。
それで彼の腕の中から解放され――、
「はゃっ!?」
また足を滑らせてバランスを崩すわたし。
そして今度は腕を掴んで倒れること防いでくれた彼。
手首を包む大きな手の平。
もう、わたしには何が何やら。
だけど、さっきのは紛れもなくあれなあれなわけで、つまり目の前の彼はサーシャのそういう相手ということになるわけで。
とするとこの先の展開はまさかまさか……。
わたしが拒絶したら彼にもサーシャにも悪いような気がしますけど、でも自分の体じゃないとは言ってもさすがにそれは……。
けれどあんまり拒んだら、わたしがサーシャじゃないとわかってしまうかもしれません。
「本当に変だぞ、お前。
 熱でもあるのか?」
それです! その時だけ、悪魔である彼の言葉が神様のそれにすら聞こえました。
「そ、そうなんです、実は今日はちょっと体調が……ゴホゴホ。
 ですから……」
「よし、わかった」
今日はそういうことはなしの方向で、と続けようとしたわたしの言葉を遮るように、彼が言葉を被せてきます。
何だかすごく男前な笑顔に、思わず見蕩れてしまいそうに――って、悪魔なんかに見蕩れるわけがありませんありえませんあるはずがありません。
「なら、今日は俺が全部やってやっから、お前は何もしなくていいぞ」
一瞬、掃除とか料理とか、そっちのことだと思いました。
でも、彼の手はわたしの服とも言えないような服に伸びて、胸を覆う布きれを取り去っていきます。
「え? え? ええ?」
「熱を冷ますには適度に汗かいた方がいいからな」
露わになった胸で感じる外気の冷たさ。
それに目を白黒させるわたしを尻目に、一仕事を終えた彼の手は勤勉にもすぐさま次の作業に移りました。
わたしの背後に回された彼の手。
それがわたしの尻尾をぎゅっと掴んできました。
「ひぅん!」
それは初めての感覚でした。
なにせ、本当のわたしの体には尻尾なんてありませんから、そこを掴まれる感覚が初めてなのは当たり前です。
とにかく、その根元を握られると、まるで体から力が搾り出されるようなそんな感じがして、手足に力が入らなくなりました。
そして全身の力がそこから抜けていくような感覚があったのとは逆に、握られた所からは何かが流れ込んでくるような感覚もあって――。
「な、なんですか、これは!?」
尻尾が勝手に動いたかと思うと、わたしの両腕を絡め取っていったのです。
抵抗する暇さえありませんでした。
あっという間に自分の尻尾で後ろ手に拘束されてしまいます。
「――よっと」
そんな声と共に、今度は体を引っくり返されて床に下ろされてしまいます。
けれど、あれほど嫌だった床に押し付けられたことに文句を言うだけの余裕は、今のわたしにはありませんでした。
だって、今のわたしの体勢は、彼に向けてお尻だけ掲げた恥ずかし過ぎるもので、その事に頭の中は大絶賛沸騰中なんですから。
どうにかしようと思っても尻尾の付け根は相も変わらず彼の手の中にあります。
それだけでもう彼の為すがままになってしまうんです。
サーシャの体にこんな弱点があるなんて知りませんでした。
この事は元の体に戻った暁にはわたしに取って素晴らしいアドバンテージになってくれるはずなんですが、今は――。
「あ、だ、駄目です」
そうこうしている内にも、彼の空いているほうの手がわたしの腰回りの布地に伸びてきました。
それを取り払われると、わたしのそこを守っているのはたった1枚の下着だけ。
それすらも、彼の手にかかってはあっという間に――。
「あ、あぁ……」
胸に続いて、そこでも外気の冷たさを感じさせられてしまいました。
ある程度の歳になってからは誰にも見せたことのないそこに、彼の視線が注がれているのが見なくてもわかってしまいます。
まるで彼の視線が熱を帯びているように、そこが燃えるようにカッと熱くなっていくんです。
そして一瞬暖かな息がかかったかと思うと、次はもっと熱くてぬるぬるしたものがわたしのそこに。
「ひゃ、あ、ああん……」
うねうねと動く彼の舌。
べちょべちょという品のない水音が、わたしの羞恥心を煽ります。
そこから生まれる感覚は、今まで経験したことのないものでした。
そこを中心に、痺れるような心地良さが全身に広がっていって、ますます手足に力が入らなくなってしまいます。
それどころか、この感覚にずっと身を委ねていたくなって――。
「なんか、今日の濡れ方、半端じゃねーな。
 これならもう大丈夫だろ?」
1度口を離してそんなことを彼が言います。
濡れる、というのが何のことなのか、理解するのに少し時間が必要でした。
けれど、それがわたしの体が――元はサーシャのですけど――彼を受け入れる準備を整えているということだとわかって、ますます恥ずかしさが募っていきます。
しかも、彼の言葉を信じるなら、今のわたしは普段のサーシャより――。
「あ、や、やぁ……」
思えば思うほど恥ずかしさは膨れ上がって、それに反応したように内股をとろりとした液体が伝い落ちていく感覚が生まれました。
そのはしたない液体の源泉に、舌よりももっと熱くて、そして固い何かの先端を宛がわれます。
もちろん、それがなんなのかくらいわかっていました。
恐くないと言えば嘘になります。
初めては、とてもとても痛いと聞いたことがありました。
だから、恐い。
でも、その一方でお腹の奥がじんじんと疼くようなそんな感覚がありました。
一刻も早くそこを満たしてほしいと、わたしの体が訴えかけているようです。
「いくぞ」
その言葉に先に反応したのは期待と不安、どっちだったんでしょう。
それは結局わかりませんでした。
だって、彼のものが入ってきた瞬間、わたしの頭の中は痛みではなくて、めくるめくような快感に支配されてしまったんですから。
「ひあ、ふあああん!」
考えてみれば、これはサーシャの体です。
家にあったあれや彼の言葉からして、きっともう何度もこういったことを経験しているんでしょう。
心は初めてなのに、体の方はもう快楽を得るための回路ができあがっている状態なんです。
我慢するとか、そういうレベルの話ではありませんでした。
お腹の中を彼のたくましいものに擦られる感覚。
腰が溶けてしまいそうなほどの、甘い痺れ。
「はぇ!?」
そこへ不意打ちのように襲ってきた、胸のあたりの冷たい感触。
涙で滲む視界の中、ぺったんこの胸に緑色の物体が――。
「は、や、……むね、だめぇ……」
さっき壁に叩きつけたはずのスライムがいつのまにか戻ってきていました。
それが胸に纏わりついて、その表面をずるずると這い回り、ぐにぐにとマッサージをするように動いているんです。
「はぅ!?」
その一端が右の胸の中心に到達した瞬間、そこがスイッチになっていたかのように全身に衝撃が走りました。
冷たさを感じたのは最初の一瞬だけ。
残ったのは、皮膚を裏側から直接火で炙られているような、そんな灼熱感。
そしてお腹の中で前後する彼のあれも、スライムに対抗するように体積を増したように感じられました。
胸と股間からとめどなく溢れ出す気持ち良さに、頭の中が白く濁って何も考えられなくなっていきます。
「く……締まる……」
背後から聞こえる少し苦しそうな、でも同時に気持ち良さそうな彼の声。
彼も気持ち良くなってくれていることがなぜか嬉しく感じられました。
そして、そんな風に思うとわたしの中の快感もまた何倍にも跳ね上がって、わたしはもう――。
「ひあああああああ!!」
頭の中で何かが爆発したような感覚に、わたしは為す術もなくさらわれてしまったのでした。

体の1番奥で、彼のものの先端から熱い液体が注がれているのがわかりました。
行為の終わりを理解しているように、スライムがずるずるとその身を引きずりながら離れていきます。
そしてまた彼のものも。
それを名残惜しく思ってしまう自分に驚きを感じながら、それでもなぜかそんな自分が嫌ではないことに2重に驚いてしまいました。
そんなことを感じながら、全身を包む心地良い気だるさに身を委ねます。
ただ、自分の尻尾で拘束されたままの腕が少し苦しかったですけど。
「ふぅ……」
満足げな彼の吐息がやっぱりちょっと嬉しくて――。
「さて、そろそろ目的を聞かせてもらおうかな」
いきなり冷たく色を変えた彼の声音に、ぼうっとしているわたしの頭はついていけませんでした。
「……ふぇ?」
思わず振り返ろうとして――、
「おっと、余計なことをするなよ」
首筋にちくりとした痛みを感じて動きを中断します。
視線だけをそこに向けると、刃物のように長く伸びた彼の爪がそこに突き付けられていました。
「サーシャをどうした? 答えによっては……」
凄みをきかせた低い声。
ようやく頭が回り始め、彼の言葉の意味を理解し始めました。
「そ、そんな……いつから……」
「お前、本当にバレてないつもりだったのか……? 成りすますつもりなら言葉遣いにくらい気をつかえっつーの」
彼の声に呆れたような感じが混ざってきました。
でも、それでわたしの心が軽くなることはありません。
「な、なら……最初から?」
沈黙はたぶん肯定です。
喉がひくっと痙攣しました。
目頭が熱くなって――、
「そ、そんな……ひどすぎます……」
大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちていきました。
「わたし……バレないようにって……だから我慢しないとって……ふえ、ふえええええ!」
込み上げてくる嗚咽のせいで、そこからはもう言葉になりませんでした。
背後で彼が慌てている気配がかすかに伝わってきます。
その中で、わたしは長い時間大声で泣き続けたのでした。

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