9月最後の日曜日、快晴と呼ぶにふさわしい雲一つない青空の下、市立京成小学校の校庭はただならぬ喧騒に包まれていた。
運動会。
秋の、いや1年の中でも最も盛大に執り行われる行事だ。
この1日、校庭は子どもたちの掛け声、保護者の声援、競技に勝利したチームの歓声、そして多くの人の笑顔で溢れ返る。
それは過ぎ去った夏の空気にすら劣らないほどの熱に満ちた活気。
とはいえ、この行事が全ての生徒にとって待ちに待ったものとは限らない。
運動が苦手な者にとっては、1年で最も憂鬱な1日にもなりかねないのだ。
そして運動が比較的得意な者にとっても、一部の競技は悩みの種となることもある。

午前最後の種目である6年生による組体操に参加しながら、1人の少女が内心で溜め息をついた。
体操服を着た少女の平坦な胸、そこに縫い付けられた名札には『6−3 進藤めぐみ』と書かれている。
校庭の中央、大柄な生徒が円形に肩を組んで形成された土台2段分の上にめぐみはしゃがんでいた。
やがて教師が笛を吹くと最下段の生徒が立ち上がる。
それだけでめぐみの視点は約1メートルほど上昇し、次の笛で2段目の生徒が立ち上がると、そこはもう普段ではなかなか経験できない高さになった。
2階の窓から眺めるのとはわけが違う。
今、彼女を下から支えているのは頑強なコンクリートなどではなくあくまでも人間、しかも大柄とはいえ自分と同じ年の子どもたちなのだ。
この日の為に何度も練習しているとはいえ、この高さと足場に慣れることは結局できなかった。
(ちっちゃいとこういう時損なんだから……)
めぐみは体躯は、小柄という表現では足りないのではないかと思うほどに小さかった。
身長順に並べば最前列が指定席であり、小学校に入って以来、前へならえで前にならったことはない。
初対面の相手には低学年の子だと思われることも珍しくない、というよりそれしかなかった。
周囲はそんな自分をかわいいと言ってくれ、彼女自身も決してそのことは嫌いではないのだが、それでもこの組体操で役割分担を決める際、ほぼ自動的に最上段の役を与えられた時は自分の矮躯を恨まずにはいられなかったものだ。
そんなめぐみの内心を無視して3度目の笛が吹き鳴らされる。
3度目の笛は最上段の生徒が立ち上がる合図。
と言っても3段あるのは校庭中央のこの塔だけであり、この笛はめぐみだけの為に鳴らされる、ある意味ではこれ以上ないほど贅沢な音だった。
けれどそれを有り難がる余裕は当の彼女にはない。
2段目の生徒の頭に手をついてしゃがんでいる今ですら怖いのに、ここからさらに立ち上がらなくてはならないのだ。
心臓が早鐘を打ち、背中や手の平には嫌な汗が浮かぶ。
軽度の高所恐怖症の気があるめぐみにとっては拷問に等しい行為ではあったが、だからといってこのままでもいられない。
少女は1度深呼吸をして、恐る恐る腰を上げ始めた。
校庭に集まった全ての人の注目が集まっているのが肌で感じられる。
その視線の中、めぐみは多少腰が引けた状態ではあるものの何とか立ち上がることに成功した。
そこで左右に手を広げ、時間が早く過ぎることを祈る。
(う〜、早く吹いてよ〜、――って、うわあ!?)
再びしゃがむことが許される4度目の笛の音を今か今かと待ちわびていためぐみに届いたのは、澄んだ笛の音ではなく一陣の突風だった。
思いがけぬ風に慌ててバランスをとろうとするめぐみ。
風下側にいた生徒の肩を多少強く踏んでしまったものの、それでもなんとか体勢を整えることができた、そう思った瞬間だった。
「え、ちょ、うそ!?」
風に煽られ、そこから立て直そうと塔を形作る生徒が全員一斉に反対側に戻ろうとしたのだ。
皮肉にも全員一丸となって生み出した力は、わずかに傾いた塔を元の位置に戻しても十分におつりがくる量。
3段分の高さを持つ塔が、それこそ外国の有名な塔のごとく傾いていく。
全員が慌ててもう1度立て直そうとするが、ある一線を越えてしまえばもう後戻りはできなかった。
下級生や保護者が固唾を飲んで見守る中、足場が崩壊し地面が急速に近づいてくる。
めぐみが認識できたのは、そこまでだった。

清潔な白のカーテンで仕切られた空間の中、ベッドの上に1人の少女、めぐみが眠っていた。
あたりに漂うのは消毒薬の匂いが混ざった空気。
窓ガラスとカーテン越しでも伝わってくる運動会の喧騒とは対照的に安らかな寝息を立てていためぐみだったが、やがて目覚めの兆しと言うように長めのまつげがピクリと震えた。
「ん……ぅ……」
その震えが徐々に大きくなり、やがてかすかな呻き声を漏らしながらめぐみは目を覚ます。
一瞬自分の状態が把握できずぼんやりと天井を眺め、次の瞬間布団を撥ね退ける勢いで起き上がった。
「あ、あれ、わたし?」
周囲をきょりょきょろと見回し、ベッドを囲むカーテンと鼻をつく刺激臭にここが保健室であることに思い至る。
(そっか、塔が崩れて、それでわたし……)
そしてその認識に引き摺られるように、気を失う前の出来事を思い出した。
「進藤さん、起きた?」
物音を聞き付けたのだろう、落下の瞬間が脳裏によぎり身を震わせためぐみの耳に、落ちついた女性の声が届いた。
緊張と恐怖で固まった全身の筋肉を解きほぐしてくれるような、その声には聞き覚えがある。
校医の先生のものだ。
返事をするとカーテンが引かれ、予想通りの人物が姿を現した。
「どう? とりあえず見える範囲では肘を擦り剥いたくらいだったんだけど、他にどこか痛かったり気持ち悪かったりしない?」
優しげな微笑みを浮かべながらそう尋ねられる。
言われて肘のあたりを見れば、そこには大きめのバンソウコウが貼られ、その中心が小さく茶色に染まっていた。
怪我をしていることに気付いてみれば、確かにそこからは小さいながらもズキズキとした痛みが伝わってくる。
続けて自分の体全体に意識を向けてみるが、幸いにも肘以外の場所からは特に問題は感じられなかった。
「えっと……他にはとくにな――あっ!?」
異常がないことを伝えようとしためぐみの言葉を遮ったのは、彼女自身の腹部から響いた大きな音だった。
顔に血液が集まってくるのを自覚しながら反射的に壁に掛けられた時計に目をやれば、時刻は既に3時を回ろうかというところだ。
いくらこの数時間はベッドで寝ていたとはいえ、午前に散々運動しておいて昼食を食べ損ねては腹の虫も黙ってはいてくれないというものだろう。
「ふふっ、どうやら大丈夫そうね」
「は、はい……」
笑いを含んだ校医の言葉に、めぐみは顔を俯けてしまう。
一瞬の沈黙。
それを破ったのは外から聞こえた放送の声だった。
『まもなく騎馬戦が始まります。
 6年生女子は決められた場所に集合してください』 それを聞いて弾かれたようにめぐみの顔が上がる。
騎馬戦は最後から2番目の競技だった。
最後は各クラス代表によるリレーな為、めぐみにとっては今日参加できる最後の競技になる。
そしてそれはまた、最上級生の彼女にとってはこの小学校で最後に参加できる競技という事もできた。
「あ、わたし行かないと」
このままでは最後の記憶が大失敗した組体操になってしまうのだ。
それに4人で1つの騎馬を作るこの競技でめぐみが行かなければ、一緒に組むはずだった3人があぶれてしまう。
ぎりぎりとはいえ開始前に目が覚めたのは幸運だった。
「本当に大丈夫?」
「はい」
浮かべていた微笑みを収め、真剣な顔で尋ねられる。
それに対し、めぐみも意識して顔を引き締め頷くと再び校医の顔に微笑みが戻った。
「そう……じゃあ、ちょっと待ってて」
そう言って流し台の方に小走りで行ったかと思うと、すぐに戻ってきた校医の手には水の入ったコップが握られていた。
「お腹は膨れないかもしれないけど、とりあえずこれ」
「あ、ありがとうございます」
空腹はもちろんだが、それと同じくらいのども渇いていためぐみは時間がないこともあり一気にそれを飲み干すと、お礼を言って入口に向けて走り出す。
「頑張ってね」
背後にその声を聞きながら、めぐみは保健室を飛び出し昇降口へと急いだのだった。

「あ、メグ、もう大丈夫なの?」
赤組の集合場所まで来ためぐみを迎えてくれたのは、クラスでも特に仲のいい2人、紗江と佳苗だった。
「うん、ごめんね。
 もう平気だから」
走ってきたせいか早くなった鼓動と火照る体を落ちつかせながらそう答えると、2人は満面の笑みで歓迎してくれた。
(よかった、間に合って)
その笑顔に心底そう思っていためぐみだったが、そこである違和感に気付いた。
「あれ、でもなんで紗江がこっちにいるの?」
同じ赤組である佳苗がいるのは当然といえば当然だが、紗江は白組のはずだった。
なのに赤白帽の赤の面を表にして、赤組の集合場所であるここにいる。
「なんでって……赤組のあたしがここにいて何が悪いの?」
しかし当の紗江はめぐみの方こそ何を言っているのかという風で、ちらりと窺ってみれば佳苗も紗江と同じらしく不思議そうな顔をこちらに向けている。
「もしかして、やっぱり頭打ってたりするんじゃない?」
「そ、そんなことないけど……?」
冗談めかしてニヤリと笑いながら肘で突いてくる紗江に、めぐみは曖昧な笑みを返す事しかできなかった。
いくら考えてみても紗江は白組だったと思うのだが、そう思っているのは自分だけだと言われれば徐々に自信が揺らいでくる。
それでも完全には納得できずにいためぐみだったが、入場のための行進曲が流れ始めると思考を中断せざるを得なくなった。
「ほら、メグはここ。
 あとこれも早く着けて」
紗江に言われるままに彼女と佳苗の間に並び、赤地に白抜きで5と書かれたゼッケンを装着する。
そもそも紗江がいる時点で当然なのだが、この並び順も練習の時とは違っていてさらにめぐみも困惑を深めさせるものではあったが、それとは対照的に周囲は何事もなかったように入場を開始した。

(なに、あれ……?)
勇ましい行進曲に乗ってトラックに入ってきためぐみはさらなる違和感を突き付けられた。
両サイドに引かれたラインの前に、見た事もないものがずらりと並べられていたのだ。
一言で表すならば高さ1.5メートルほどの三角柱。
三角形の1辺の長さはちょうど肩幅ぐらいだろうか。
お神輿のように前後に2本ずつ棒が伸びているその物体は、騎馬戦の練習で、というより生まれてから今までにみたことがない物だった。
曲が終わり、白組と戦場を挟んで向かい合うように整列する。
白組の面々も、そして横目で窺う赤組の面々も、足もとのこれに対して特別な反応はない。
紗江が赤組にいることと同様、これがあるのは当たり前という様子だ。
膨れ上がる違和感が最高潮に達しようとした時、中央にいる審判役の教師が笛を長く吹き鳴らした。
それに合わせてめぐみの両側に立っていた2人が前に出て、その三角柱の前後につく。
そのままその場でしゃがみこむと、前後の2本の棒を肩に乗せた。
形状からある程度は想像できてはいたが、つまりこれがめぐみが乗る騎馬という事だ。
両陣営とも全ての騎馬の用意ができたこと確認し、もう1度笛が鳴らされる。
それを合図に残されていた子ども達が前に出た。
(ど、どうしよう……でも……)
わけがわからないまま、それでも1人遅れるわけにもいかない。
仕方なくめぐみも周囲に倣い、腰の高さにある三角柱に跨った。
当然だが三角形の頂点は丸みを帯びていて、恐る恐る腰を下ろしてみても痛みはない。
だが、それでも狭い面積に体重がかかることで硬い物が股間に押し付けられる感触は気にならないとは言えない物だった。
それを少しでも軽減するために、手と太股で体重を支える。
(なんだろ……なんか変な感じ……)
この事態に対する緊張のせいだろうか、集合場所まで走ったせいだと思っていた動悸と火照りは一向に治まる気配がない。
それどころかそれらは時が経つごとにますます強くなってきて、風邪を引いて熱を出した時のように頭がぼうっとしてくる感覚すら生まれ始めた。
(もしかして、本当に頭を打ってたのかな……?)
さきほど紗江に言われた事を思い出し、そんなことを思った瞬間だった。
「――あ」
股間にじわりと湿った感触が生まれ、めぐみはおもわず小さな声を漏らしてしまった。
「どうしたの?」
「あ、ううん、なんでもない」
背後から聞こえた佳苗の問いを誤魔化しながら、めぐみは内心で焦りを覚えていた。
一瞬お漏らしをしてしまったのかと思ったが、すぐにそれは小水とは異なるものだと気がついたのだ。
授業で習った、男女が子どもを作る際にデリケートな粘膜を守るために女性の側が分泌する液体。
なぜそんな物が今このタイミングで出てくるのか。
焦りと困惑が頂点に達しためぐみの思考を現実に引き戻したのは、またしても教師の鳴らした笛の音だった。
「いくよ」
笛の音と、前にいる紗江の言葉。
それが何を意味するのか、混乱していためぐみの思考がその答えにたどり着くまでにはわずかな時間が必要だった。
そんなめぐみの思考を待つ事はなく、タイミングを合わせて紗江と佳苗が立ち上がる。
それはつまりめぐみが跨っている台が彼女の股間に押し付けられるように上昇してくるという事だ。
「あ、や、やぁっ!?」
いきなり強くなった刺激に悲鳴のような声をあげてしまう。
湿りを帯びた下着がぐちゃりと押し付けられ、股間を中心に奇妙な感覚が爆発するように広がっていく。
「ひゃぁ!?」
あまりの激感にバランスを崩し掛けためぐみをすんでの所で支えてくれたのは、とっさに脇腹に当てられた佳苗の手だった。
ただ今度はその手の平の感触がむずがゆく、それが原因でめぐみは身を捩じらせてしまう。
「メグ、大丈夫?」
「う、うん……」
「そう? じゃあそろそろ手を離して」
「……え?」
台を股間に押し付けられるという事態に対し、慌てて両手足に力を込め、腰をわずかに浮かせたことでようやく人心地つくことができためぐみは佳苗の言葉に耳を疑ってしまった。
現在直接的な圧迫から解放されたにも関わらず、まだ股間には余韻のようにジンジンとした疼きが残っていて落ちつかないのだ。
しかし周囲を見回してみれば、確かに他の騎馬では上にいる子は手を台から離し構えを取っている。
その顔が総じて赤らんでいるところから見ると、どうやら皆めぐみと似たような状態らしい。
そしてまた、中央にいる教師がめぐみの方を見ていることにも気がついた。
彼女が手を離すのを待っているのだ。
(で、でも、手を離したら……)
さきほど周囲を見回したことで、めぐみは大勢の人を自分を見ているという事実を改めて認識させられていた。
目を輝かせてこちらを見る下級生の視線。
やさしげな微笑みを浮かべながら我が子の成長を見守る保護者の視線。
そして彼らが構えたビデオやカメラの無機質なレンズ。
こんなにも多くの視線を向けられた中、下着の中で起きている異変。
恥ずかしさが胸のあたりから込み上げてくる。
そしてそれに反応するように、じわりと、また股間の湿り気が増した感触に身を震わせる。
いくら生地が厚めのブルマであっても染みができてしまうのではないかと、そう思えてしまうほどの量だった。
(な、なんでこんなことに……)
それでも太股に一層の力を込め台を挟みこみ、ゆっくりと手をあげていく。
幸いにも太股だけでもなんとか腰を上げておくことができ、めぐみは心の中で胸を撫で下ろした。
全員が台から手を離したことを確認した審判役の教師がピストルを空に向ける。
潮が引くように喧騒が遠のき、戦いの前の一瞬の沈黙が校庭に生まれた。
『さあ、赤組白組ともに準備が整いました。
 現在得点では白組がわずかにリードしています。
 赤組の皆さん頑張りましょう』 それを破ったのはノイズ混じりのアナウンス。
一気に下級生と保護者から応援の声が爆発する。
そしてその応援の声を引き裂くように、開始を告げるピストルの音が秋空に響き渡った。

「いくよ」
言葉そのものは立ち上がると同じ、けれどそこに込められた気合は桁違いな紗江の声を合図にしてめぐみを乗せた騎馬がスタートラインを越える。
容易に想像できることではあったが、2人と台で形成された騎馬に安定を求めるのは無理な話だった。
まだ開始直後の様子見のペースだというのに、その歩みによって生まれる震動はめぐみを追い詰めるには十分な強さだ。
じりじりと太股が台の表面をずり落ちていく。
(あ、あ、だ、だめ……)
元々股間と台の頂点の間にはほんの数センチしか余裕がなく、その貯金はあっという間に底を尽きそうになってしまった。
頭によぎるのは立ち上がるときに感じたあの感覚。
「メグ、来るよ!」
またも内側に向いていためぐみの意識を引き戻したのは、注意を促す紗江の言葉だった。
見れば確かに前方にこちらを狙っているらしい白組の騎馬がいる。
(し、集中しないと……)
頭ではそう思ってしまうのに、どうしても前方で展開する敵軍の動きよりも股間にばかり意識が行ってしまう。
こちらの帽子を奪おうと突進してくる敵の姿。
様々な思考が頭の中で絡み合いもつれてとっさに反応できなくなる。
スローモーションのように伸びてくる手に、もうダメだと、そう思った。
「佳苗、右!」
言葉の意味を理解するよりも早く、目の前まで迫っていた相手の姿が流れるように横に滑る。
いや、めぐみを乗せた騎馬が一瞬で横に飛び退いたのだ。
前後の足役の完璧なまでに息のあったその挙動は、絶体絶命だっためぐみの騎馬の命をぎりぎりのところで救ってくれた。
だが、一方でその急激な動きはぎりぎりで守られていためぐみの股間に止めをさすことになってしまう。
「だ、だめぇぇ!」
めぐみにしてみれば校庭中に聞こえたのではと思うほど大きな湿った音を立て、今までにない強さで台の頂点が敏感な場所に食い込んでくる。
あまりの刺激にさきほどまでとは別の理由で頭の中が真っ白になり、未知の感覚に対する本能的とも言える恐怖から反射的に台に手をついてしまう。
「赤の5番!」
鋭く吹き鳴らされる笛の音。
そしてその後に聞こえた教師の言葉が自分を指す物だと気が付いたのは、溜め息混じりの紗江の言葉を聞いてからだった。
「あちゃ〜」
「え? え?」
我に返っためぐみは、自分の体重が小さくなったような感覚に、紗江と佳苗がしゃがもうとしていることを気がついた。
(ま、負けちゃったの……?)
片手で体重を支えながら、反射的にもう片方の手を頭に乗せてみるが、帽子はまだそこにある。
負けたわけではない、はずだった。
「メグちゃん、手を後ろに回して」
1番下まで下りたところで自分は台から降りるべきか迷っていると、背後からそんなことを言われた。
言われるままに手を後ろに回すと、両方の手首に何かを巻き付けられる感触。
「え、なにこれ?」
確認するために手を前に戻そうとして、それができないことに気が付いた。
手首にはめられた物同士が短いひものような物で連結されているのだ。
「カナちゃん、これ……?」
『あっと、赤組5番、台に手を付いてしまいました。
 ペナルティとして1分間手を使うことができません。
 さあ、果たしてこのピンチを無事に抜けられるのでしょうか』 佳苗の代わりとでも言うように、どこか棒読みなアナウンスが説明してくれる。
「う、うそ……あぅぅ」
その内容に呆然としていためぐみをよそに2人が立ち上がり、再びあの感覚が襲われる。
慌てて太股に力を込めてみても、内股に浮いた汗で滑ってしまいもう腰を上げる事はできなくなってしまっていた。
「カナ、逃げるよ!」
「うん!」
そして追い討ちをかけるように、めぐみを乗せた騎馬がさきほどまで以上に激しく動き始めた。
「さ、紗江ちゃん、もっとゆっくり……あっ!」
激しい震動が直接股間に叩き付けられる。
マッサージをされているように硬い感触がグニグニと押し付けられ、その絶え間ない刺激があっという間にめぐみの心を追い立てていった。
「だって逃げないと」
軽く息を乱しながら紗江が言う。
それは騎馬戦という点から見れば至極真っ当な意見だった。
反撃が封じられまさに絶好の獲物となっためぐみを狙って複数の騎馬が追いすがってくるのだ。
「で、でも……こんな……」
「メグちゃん、もう少し我慢して」
佳苗は心配そうに言い、けれど足を緩める事はない。
「か、カナちゃぁん……」
1分という、普段ならあっという間に過ぎていく時間がまるで永遠のように感じられる。
ますます強くなっていく股間からの感覚。
それだけでもめぐみにとっては堪え難い物だったが、今ではここにさらに別の問題まで生まれ始めていた。
(あ、ああ……胸まで、どうして……)
腕を後ろに回しているせいで上体を軽く反らすような体勢になってしまい、両胸の中心が下着の裏側と擦れてしまっているのだ。
普段は意識しないほどの滑らかな下着の感触が、今はまるでやすりにでもなったかのように乳首を擦り上げる。
その度にビリビリとした痺れるような感覚がめぐみの意識を掻き乱していった。
「あ、だめぇ……もう、とめてぇ……こんなの、こんなのだめぇ……」
白く霞んでいく視界の中に数えきれない視線が映る。
(だめ、だめ、皆見てるのに……)
頭が沸騰したように際限なく熱くなっていく。
自分という存在が、摩擦される敏感な突起と、捏ね回される花弁だけになってしまったような感覚。
一欠片だけ残された理性が、目の前まで迫った“何か”を拒絶する。
こんな場所で、多くの人に見られながらそこに到達してはいけない。
そう、思った。
(でも、こんな気持ちよくて……我慢できない……)
生まれてくる感覚を快感と自覚してしまうと、そこからは一方的だった。
洪水のように押し寄せる快感が、そのわずかな理性すらも押し流し心を占領していく。
「あ、あああ、あああーーーっ!」
そして目には見えないある一線を越えた瞬間、めぐみは自分の体が爆発してしまったかのような錯覚と共に、初めての絶頂に打ち上げられていた。
そのまま折れてしまいそうなほど背中が反り返り、勢い余ってバランスを崩す。
蘇るのは塔から落下した数時間前の記憶。
肩に衝撃があり、けれど神経が焼き切れてしまったのか痛みはなかった。
『おおっと、最後まで残っていた赤の5番も落馬してしまいました。
 残念ながら失格です』 遠く聞こえるアナウンスに、自分が赤組最後の一騎だったことを今更知った。
そして赤組が敗北してしまったことも。
同じ赤組の人たちに申し訳ないなと思い、けれど終わってくれたことに安堵する。
そのまま遠のいていきそうな意識の中、めぐみは続くアナウンスを聞くともなしに聞いていた。
『続いて2回戦が開始されます。
 選手の皆さんはスタートラインまで戻ってください。
 今度は赤組の皆さんも頑張りましょう――』

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