結局、あれはなんだったんだろう。
そんなことを考えながら、朝の通学路を歩く。
まだ朝だというのに元気いっぱいな蝉の声。
ついつい溜め息をついてしまうわたしとは対照的だ。
今朝目覚めた時、確かにわたしは自分の部屋にいた。
それは昨日聞いた話の通りで。
もしあれが本当にあったことなら、睡眠時間なんて普段の数分の一しかないはずなのに、目覚めはかなりすっきりとしていて、むしろ普段より調子がいいくらいだった。
だいたい、どうやって家まで運ばれたのかという大きな問題の答えはさっぱり思い付かない。
雨宮さんが気絶したわたしを運んでくれて、わざわざパジャマにまで着替えさせてくれたとも考えにくいし。
「やっぱり、夢だったのかなぁ……」
実際にはわたしは昨晩いつも通りにベッドに入り眠りにつき、あれは1番最初の、館に入るところからもう夢だったのだろうか。
そもそもあの出来事があまりにも現実離れしていたのは確かで、だから普通に考えたら夢以外の何物でもないはずなんだけど。
けれど、記憶はこれ以上にないほど鮮明で、思い出すと、ううん、わざわざ思い出そうとしなくても不意にフラッシュバックしてきて、下着の中の物が反応してしまいそうになる。
今朝目を覚ました時、下着が濡れていたりということはなかった。
もしあれが全部夢なら、出してしまっていてもおかしくないのに。
「はぁ……」
結局どんなに考えても、真実がどちらなのかということはわからない。
わかるはずもなかった。

「きゃっ!?」
教室のドアを開けようと手を伸ばした瞬間、それが自動ドアのように勝手に開いた。
誰かが中から開けたのだ。
別にそれ自体はそこまで珍しいことではない。
なのに、小さくとはいえ悲鳴を上げてしまったのは――、
「あら?」
目の前に雨宮さんがいたから。
驚きのあまり心臓が口から飛び出そうになって、思わず尻餅をついてしまう。
「ごめんなさいね」
そんなわたしを冷ややかとも言える視線で一瞥して、彼女は横を擦り抜けていってしまう。
いつもの、雨宮さんだった。
「なーにやってんだか」
廊下を遠ざかっていくその背中を見送っていると、教室の中から出てきたあずさにそんなことを言われてしまった。
あずさ――席が隣になったこともあって、転校生のわたしに色々と親切にしてくれたクラスメイト。
わたしの、大切な友達。
「う、うん、ちょっと驚いちゃって……」
差し出された手を取って立ち上がる。
心臓はまだ全力疾走をした後のように早鐘を打っていた。
「それにしても、手を貸すくらいしてもいいのにね」
雨宮さんが消えた廊下の先を眺めながら、あずさが言う。
「あ、でも、わたしが勝手にこけただけだし……」
「ん……?」
顔をこちらにむけたあずさが、ちょっと眉を寄せてまじまじとわたしの顔を覗きこんでくる。
「な、なに……?」
わたしは人と目を合わせるのがあまり得意ではない。
誰にも言えない秘密を持っているから、それを見透かされてしまうみたいでどうしても落ち着かなくなってしまうのだ。
もちろん、あずさもわたしの身体のことは知らない。
もし教えたら、どんな反応をするんだろう。
前の学校の人みたいに気味悪そうにわたしを見るんだろうか。
それとも、“あの”雨宮さんみたいに、こんなわたしでも受け入れて……。
「……なんかあった?」
「な、なんかって……?」
「んー、なんか雰囲気っていうかなんていうかが、微妙に変わったような気が……」
ますます眉を寄せて顔を近づけてくるあずさに、さすがにわたしは身を引いて少しだけ距離を離す。
少しずつペースを戻しつつあった鼓動がまた早くなってきて、それを彼女に聞かれてしまいそうだった。
「な、なんにもないよ……あ、わたし1時間目の準備しとかないと。
 今日当てられそうな日だし」
我ながらあからさまな誤魔化しの言葉を口にしながら教室に入る。
背後にあずさの唸り声を聞きながら、わたしは自分の席へと足を向けた。

屋敷の前に立つと、自然と喉が鳴ってしまう。
1日の授業をなんとかやりすごして帰宅したわたしは、またここへ足を運んでいた。
『また、いらっしゃい。
 そうしたら、今度はもっと気持ちいいことを教えてあげる』
意識を失う前、最後に聞いた彼女の声がどうしても忘れられなかった。
他のことをして、なんとか気を紛らわそうとしたけれど、そこから意識を逸らそうとすればするほど、アリジゴクにはまってもがく蟻のようにどんどん中心へと引き込まれていってしまう。
学校では、わたしはことあるごとに雨宮さんの姿を目で追ってしまっていた。
けれど、彼女の方はわたしのことなんて気にもかけていないという感じで、それが少し寂しくて――、
「あら、今日は随分早いのね」
「――ふむぅ!?」
いきなり背後からかけられた声に悲鳴ををあげそうになった瞬間、細くてしなやかな指に口を塞がれた。
振り返るまでもない。
背後にいるのは、間違いなく雨宮さんだった。
「驚かせて、ごめんなさい。
 でも、外ではあまり騒がないでね」
耳元で囁かれる言葉に、わたしはバカみたいにカクカクと首を縦に振った。
彼女の吐息に耳朶をくすぐられると、それだけで腰が砕けそうになってしまう。
そうならないように必死で下半身を叱咤し激励していると、彼女はわたしの口元から手を離し、わたしを追い越すように館に一歩近づいて振り返った。
古めかしい屋敷をバックに立つ雨宮さんは、昨日の夜わたしが出会った“あの”雨宮さんだ。
まるでコインの表と裏。
身体を構成するパーツは全く同じはずなのに、どうしてここまで違った存在になれるんだろう。
2重人格、そんな言葉が頭の中に浮かんできた。
「さあ、中に入りましょう?」
学校でわたしが尻餅をついた時にはそのまま立ち去ってしまった彼女の手が、今はまっすぐこちらに差し出される。
中でなら、どんなに声を上げてもいいからねと、蕩けるような微笑みを浮かべながら彼女は言った。
無理矢理わたしの手を取って引っ張り込むようなことはしない。
あくまで、わたしが自分からその手を取ることを待っている雨宮さん。
色々とわからないことはある。
けれど、わかっていることは、この屋敷の中に入れば、わたしは自分の身体のことを隠さなくてすむということ。
この身体を受け入れてくれる雨宮さんがいるということ。
だからわたしは、彼女の手を取り、再び屋敷へと足を踏み入れた。

「そうそう、学校ではごめんなさいね。
 でも、いきなり仲が良くなっていると他の人も不審に思うでしょうから」
寝室として使われていたのだろう一室で、わたしたちは2人並んでベッドに腰を下ろしていた。
座った時に舞い上がった、決して少なくないほこりが多少落ち着いてきたところで、雨宮さんがそう切り出してくる。
「あ……」
言われて初めて、わたしは自分の愚かさに気が付いた。
ここでのことは秘密なのだから、学校でいきなり態度を変えるなんて愚の骨頂というしかない。
「ご、ごめ……」
とっさに謝ろうとして、けれどその途中で唇に当てられた指に言葉を遮られる。
「気にしなくていいのよ。
 あなたにしてみたら、混乱して当然なのだから」
指が離れていく。
それを名残惜しく思っていると、雨宮さんはその指を今度は自分に唇に当てた。
柔らかそうな、慎ましやかに咲いた1輪の花のような彼女の唇。
「ふふ、これで間接キスが成立ね」
悪戯っぽく微笑む彼女。
間接キスというその単語に、わたしの胸が高鳴った。
「あ、あの……直接じゃ、だめですか……?」
不意に口から飛び出していった言葉に、自分でも驚いてしまった。
そしてそれは雨宮さんも同じだったらしく、少しだけ目を丸くしてこちらを見ている。
その視線に耐えられなくなって、わたしは顔を俯けた。
どうしてあんなことを言ってしまったんだろう。
それだけが頭の中でぐるぐると回っている。
穴があったら入りたいという言葉がこれ以上当てはまる状況なんて、他にはないくらいだった。
「いいの?」
だけど、そんなあさましいわたしでさえも、雨宮さんは受け入れてくれる。
彼女のその言葉に、顔を俯けたままで首を縦に振った。
わたしからおねだりしたのだから、横に振るはずなんてない。
あごに触れる指の感触。
クイッと持ち上げられ、再び雨宮さんと正面から向かい合う。
「目を閉じて……」
言われるがままに瞼を下ろすと、顔にかかる彼女の吐息までが鮮明に感じられた。
それが少しずつ強くなってくる。
頭の芯を痺れさせるような、甘い甘い吐息。
緊張のあまり、シーツをギュッと握る。
頬なんかも強張っているのが自分でもわかって、きっと変な顔になっているんだと思った。
それを間近から見られていると思うと恥ずかしくて、でもあごに添えられた指のせいで顔を背けることはできない。
といっても、仮にその指がなくてもわたしは顔を背けたりなんてしなかっただろうけれど。
そしてわたしの唇に触れる、想像通りの、ううん、想像以上の柔らかな感触に、わたしは気を失いそうなほどの至福感に包まれた。
わたしより雨宮さんの方が背が高いから、わたしの方が少しだけ上を向いたような状態になる。
あごに添えられているのとは逆の手が、首の後ろに回された。
わたしもそれに倣おうかと思ったけど、ガチガチになった腕は動いてくれなくて、そのまま破り取りそうなほどの力を込めてシーツを握り締める。
しばらくはそのまま触れているだけのキスだった。
「ん……」
雨宮さんの唇が少しだけ開かれて、そこから顔を覗かせた舌がわたしの唇をノックするように突ついてきた。
それに応えるようにわたしも唇の間に隙間を作ると、そこから熱い吐息が流れ込んでくる。
そしてその吐息の後を追うように、もっと熱い彼女の舌がわたしの中に入り込んできて――、
「ふわぁ、ぁ……」
わたしの舌を絡めとる。
それはあの肉筒による吸引のような乱暴な行為ではなく、あくまでも優しい慈しむような行為。
お互いに自らの分泌液でぬめりを持った2本の舌が、狭い口内で睦み合う。
彼女が身を乗り出してきたせいで、わたしはそれまで以上に上を向くような状態になった。
舌を伝い落ちてくる甘露を、喉を鳴らしながら嚥下していく。
舌から生まれる甘い痺れと、胃の中に溜まるじんわりとした熱。
ようやく唇が離された時、わたしはもう夢見心地の状態に陥っていた。
離れ際、わたしの口の端から零れ落ちていた一筋の流れを、雨宮さんの舌がぺろりと舐め取っていく。
その刺激だけで、わたしは軽く達してしまいそうになった。
「ねえ、1つおねがいを聞いてくれない?」
キスの余韻でぼうっとしていたわたしに、至近距離から雨宮さんが言う。
「……え?」
次はどんなことをしてもらえるのか。
そんなことを考えていたわたしは、その予想外の言葉に戸惑ってしまう。
そしてそれによって、自分が雨宮さんにしてもらうことばかり考えていたことを思い知って、自己嫌悪を覚えずにはいられなかった。
「笹野さんが1人でするとき、どんな風にしていたのか、見せてほしいのだけど。
 そうすれば、もっと笹野さんのことがわかって、もっともっと気持ち良くしてあげられると思うの」

さっきまで並んで座っていたベッドの端に、今はわたしだけが腰を下ろしていた。
雨宮さんはわたしの正面、2メートルほど離れた場所に椅子を置いて、それに座っている。
彼女のおねがい――わたしが彼女に自慰行為を見せるというもの――を、わたしは承諾した。
もちろん、まだ始めていない今でさえ顔から火が出そうなほど恥ずかしいけど、断ることなんてできるはずもないし、したくもない。
「じゃあ、お願いね」
「はい……」
立ち上がって、スカートのホックに指をかけた。
それを外してファスナーも下ろすと、あとはもう摘んでいる指だけがスカートをそこへ留めているだけになる。
緊張で指が強張って、ブルブルと震えてしまう。
それでも思いきって、指を離した。
「ぁ……」
ふわりと、スカートの生地が足の表面を撫でていく。
そしてその下から姿を現した下着の中では、わたしのそれがもうすっかり大きくなってしまっていた。
雨宮さんの視線がそこに注がれているのが感じられる。
思わず手で隠しそうになったけど、それは必死に我慢した。
これからもっとすごいことをしないといけないのに、こんなところで足踏みしているわけにはいかないのだ。
下着のサイドに指をかけ、ゆっくりと下ろしていく。
片足を抜き、もう片方も同じように足を抜いた。
小さな染みができていた下着を、床に広がったスカートの上に置く。
そして再びベッドの端に腰を下ろした。
お尻に直に触れるシーツの感触に、改めて今自分が腰の回りに何も身に着けていないことを自覚させられる。
さすがに恥ずかしくて、もう雨宮さんの顔を直視できなかった。
生唾を飲み込みながら、限界まで勃起しているおちんちんの下に指を伸ばしていく。
女の子の部分に指先を当てると、下着の状態から予想はできていたけれど、もううっすらと湿り気を帯びていた。
「上は脱がないの?」
不意に投げかけられた質問に、言葉ではなく首を縦に振って答える。
「そう、なんだかかえっていやらしい感じね。
 見ているだけでドキドキしてきちゃう」
鼓膜を震わせる雨宮さんの声に、それまで以上に彼女がそこにいるということを意識させられる。
彼女の視線が実体を持って、本当に男の子の部分に絡みついてくるような、そんな感じがした。
じわりと、女性器に当てた指先に感じる潤みが量を増す。
それを全体に押し広げるように、手の平をそこへ押し付けた。
そしてもう片方の手は、服の上から胸に当てて円を描くように動かしていく。
「んん……はぁ……」
行為自体は今まで何度も繰り返してきたもののはずなのに、雨宮さんに見られていると思うと、そこから生まれる愉悦は自分の部屋でしている時とは比べ物にならないくらい大きかった。
肌が火照って汗の珠が浮き、胸の先端や女性器の上端にある粒がますます体積と硬度を増していく。
触れられていないおちんちんが、物欲しげにビクンと痙攣し、その先から雫を垂らした。
「男の子の方はしないの?」
「あ、あの、出すと終わっちゃうから、だから最後だけ……」
女の子の部分からは、クチュクチュという水音が絶えなくなっていた。
手を動かすたびに腰が痺れ、1番敏感なクリトリスが電流を生み出すスイッチになったように、押し潰される度にそこから鋭い快感が走り抜けていく。
「んぁ……あぅ……」
人差し指の先を、それこそ第一関節にすら届かない程度だけ割れ目の中に埋没させる。
中に入れて、もぞもぞと動かすと快感が倍増した。
同時に親指でクリトリスを刺激するのが、1人でする時の最後のやり方。
胸に当てていた手を下ろして熱くて硬いおちんちんを握り、扱くように上下に動かした。
男の子と女の子、普通なら同時に味わうことなどできないはずの2重の快感に頭が溶かされる。
このラストスパート、わずか数分にも満たない時間だけ、わたしは自分の身体を愛しく思えた。
行為の後、込み上げる空しさに涙を流すことをわかっていても、それでもこの一瞬だけは。
「え……あ!?」
気が遠くなりそうなほどの肉悦を生み出す股間に新たな感触が生まれ、わたしは一瞬我に返った。
かすかにかかる吐息。
いつのまにか、雨宮さんがわたしのそこに舌を伸ばせば届きそうなほど、顔を寄せていた。
「だ、だめ……!」
彼女の視線がダイレクトに、わたしの恥ずかしい場所に突き刺さった。
「気にしないで続けて」
気にしないでいられるはずなんてなかった。
そんなことは雨宮さんにだってわかっているはず。
「だめ、出ちゃうから……」
手はもうわたしの制御から完全に離れ、今更止めることなんてできない。
自分の意思でこの快楽を中断させられるほど、わたしの意思は強くなかった。
おちんちんの根元に、熱いものが溜まっていく感覚。
いつもはあらかじめティッシュをまとめておいたものを用意しておいて、そこに向けて射精していた。
だけど、ここにはそんなものはない。
だから、せめて向きだけでも変えようとして――、
「かけていいのよ。
 見せてもらったお礼にね」
足の間に身体を滑り込ませた雨宮さんが、そんなことを言う。
かける……わたしのあれを……雨宮さんに。
1度意識すると、それは堪え難い誘惑だった。
そんなことをしてはいけないとも思う。
けれどその思いが強ければ強いほど、かえってそれがタブーを犯す背徳感となってわたしの背筋を震わせた。
そして、急速に高まってきていた快感が最後の一線を越える。

盛大な射精を終え、我に返ったわたしは白濁に塗れた雨宮さんを見て息を飲んだ。
脱力し、仰向けにベッドに倒れたわたしを見下ろす彼女の顔には、自分でも驚くほどの精液が付着している。
半ば固体状のそれが、彼女のすっと通った形のいい鼻梁を伝い落ち唇へと到達した。
まるでそれ自体が命を持っているかのような舌が唇の隙間から顔を覗かせ、その塊を口の中へとエスコートしていく様は、出したばかりおちんちんがまた元気を取り戻してしまうほど淫らで――、
「昨日あんなに出したのに、すごく濃いのね……」
陶然とした口調で言い、雨宮さんは笑った。
微笑みを浮かべながら、わたしの上に覆い被さってくる。
わたしの頭の両側に手を突き、真上から見下ろしてくる彼女の顔。
鼻を突く青臭い匂いは、わたし自身が彼女を汚した証。
わたしは自然と頭を浮かせて雨宮さんの顔へと舌を伸ばし、そして彼女もそれを受け入れてくれた。
ペロペロと、犬がミルクを舐めるように彼女の顔に付着した白濁を舐め取っていく。
やがて一通り拭い去ることができた後、わたしたちはもう1度唇を重ねた。

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