ドアを開けるとかぼちゃ頭がいた。 大学進学を期にこのボロアパートで1人暮しを始めてから1年と半分。 その間、新聞の勧誘やら公共料金の取り立てやらあなたの幸せを祈らせてくれやら色々な客が来たが、 今目の前にいるのはその中でもかなり異質な存在だった。 頭には目と口を刳り抜いた大きなかぼちゃを被り、 首から下は地面まで届く真っ黒なマントで完全に覆われている。 頭の位置は俺の胸までようやく届く程度。 頭頂部のかぼちゃの厚みを考えれば、実際の身長はさらに低くなるだろう。 確か、外国の風習でこんな格好をするものがあったような。 「――――――?」 子ども特有の甲高い声で何かを言われたが、上手く聞き取れなかった。 「あ、えー?」 答えに詰まる俺に、かぼちゃ頭はカクンと首を傾けて、 「trick or treat?」 今度は心構えができていたおかげで、何とか聞き取れた。 トリック? 手品か? オアは「〜か〜」だったよな。 トリート? 何だったっけ? トリート……トリートメント……シャンプーか? まずい、せっかく聞き取れても意味がよくわからない。 「あーあー、あい、きゃんと、すぴーく、いんぐりっしゅ、おーけいおーけい?」 俺がたどたどしくそう言うと、かぼちゃの中から小さな溜め息が聞こえた。 ちょっとカチンと来るが、ここは日本だ。 日本語を喋らないヤツの方が非常識なのだ。 「お兄さん、馬鹿ですね」 溜め息に続いてかぼちゃの中から響いてきたのは、 呪文のような英語でもなく、溜め息でもなく、流暢な日本語だった。 「日本語が喋れるなら最初から日本語喋れ。あんまり大人をからかうもんじゃないぞ。  だいたいこんな時間に子どもが1人で出歩く……」 年長者として説教の1つもしてやろうとすると、 「あの程度もわからない人に、大人面されても困ります」 冷淡にそう返された。 ム、ムカツクガキだ。 「まあ仕方ないから日本語で言ってあげます。いたずらか、もてなしか。  お馬鹿なお兄さんのためにさらに意訳すると、お菓子をくれなきゃいたずらするぞ、です」 「もう勝手にしてくれ……」 付き合い切れなくなった俺はドアを閉めた。 幸いにも、ドアの隙間に足をねじ込まれたりすることもなくドアは閉まり、部屋の外と中を隔絶する。 「まったく、なんだったんだ一体……」 最近の子どもはわけがわからん。 そんな年寄りじみた思いを抱きながら振り返ると、目の前に肌色の壁があった。 「うおわぁっ!?」 反射的に後ろに飛び退り、さっき閉めたドアに背中から貼りついた。 少し距離を置いて見れば、そこにいたのはさっきのかぼちゃ頭だ。 体を覆っていた黒マントがめくれ上がり、その下から少女の裸体が惜しげもなく晒されている。 平坦な胸も、くびれという単語とは無縁のウエストも、 ぴっちり閉じた無毛の性器も、固そうな臀部も何もかもが。 少女がマントの下に身に着けていたのはストライプ模様のオーバーニーソックスだけ。 どう考えても隠す場所を間違っている。 「お菓子をくれなきゃいたずらするぞ」 驚いている俺を虚ろなかぼちゃ頭の眼窩の中から覗きながら、少女はさっきの言葉を繰り返す。 それに対する俺の答えは、 「バ、バカ! お前なんで裸なんだ!?」 「ツッコミ所はそこですか」 少女は呆れたようにそう言うと、天井をトンっと軽く蹴った。 そのまま空中でくるりと反転して床に立つと、 重力に従って再び黒マントが少女の身体を一分の隙なく覆い隠す。 ん? 「あ、お前、今、天井に!? だいたいどうして中にいるんだよ!?」 ま、まさか、子どもの仮装じゃなくて、マジモンの……? 「気がつくのが遅すぎますよ。さあ、そろそろ本当にお菓子をくれないと……」 この程度では済みませんよ。 言外にそう言われているのがわかった。 「わ、わかった、わかった。お菓子を渡せば帰るんだな?」 「もちろんです。こちらにもジャック・オ・ランタンとしての、  誇りというものがありますから嘘は言いません」 ジャック・オ・ランタンとしての誇りなんてものはよくわからなかったが、 とにかく俺は部屋の戸棚に向かった。 とはいえ、甘いものが苦手の俺の家に、 子どもが好みそうなキャンディーだのチョコレートだのがあるはずもない。 自分の間食用に買い置いてあったのは――、 「こ、これでいいか?」 部屋まで付いてきたかぼちゃ頭にスナック菓子の袋を渡す。 「見たことがないお菓子ですね。まあいいでしょう」 偉そうにそう言いながら、かぼちゃ頭は袋をあけると天井を見上げ、頭の上で掲げた袋を傾ける。 かぼちゃ頭が何をしようとしているかは気付いていたが、 黒マントとは対照的な病的なまでに白い喉に意識を取られ、 俺は一瞬制止するのも忘れて動きを止めてしまった。 黒地に、赤い唐辛子をモチーフにしたキャラクターが描かれた袋から、 リング状のスナック菓子が零れ落ちる。 それらは全て、かぼちゃに開けられた口に吸い込まれていった。 「ぶふぅっ!?」 かぼちゃの中からバリボリという音が聞こえた直後、 かぼちゃに開けられた口から中途半端に咀嚼されたスナック菓子が噴き出した。 それはまさに岩の割れ目から噴出するマグマを連想させる光景。 「けほっ……けほっ……な、なんですか、これは……けほっ!」 「バ、バカ、小さいお子様は気をつけろって袋に書いてあっただろ」 俺が渡しといてなんだが、あんな食べ方すれば誰だってそうなるだろう。 いやしかし、妖怪さえも暴君の前では平伏すというのか。 さすがとしか言いようがない。 「あな、けほっ……あなたという人は……」 「ま、待ってろ、今、水を……」 さすがに罪悪感に駆られて流しに走ろうとした俺の目の前で、かぼちゃ頭の姿が掻き消えた。 「もう、許し、けほっ、てあげません。って締まりませんね、これでは、けほっけほっ」 背後で聞こえた声と、首筋のちくりとした痛み。 「え、あ……」 いきなり意思に反して膝から力が抜けた。 そのまま前に倒れ込みそうになった俺の襟首を、背後から小さな手が掴んだ。 一瞬だけ感謝したが、それはすぐに撤回される。 その手は俺が倒れるのを防いではくれなかったのだ。 グイッと引っ張られ、前にではなく後ろに倒れてしまう。 仰向けに倒れた俺を、当たり前だが感情が一切読み取れないかぼちゃ頭が見下ろしていた。 「な、何をした……?」 手足が痺れて動かせない。 「人間にとっての毒だと思ってもらって結構ですよ。  動けないだけで、別に命がどうこうなるというものでもありませんけど」 ようやく咳は治まったのか、それでもまだ少し苦しそうに、掠れ気味の声でかぼちゃ頭が言う。 「あなたの事をただの馬鹿だと見くびっていました。  まさかあんな騙し討ちをするような人だったなんて」 「ま、待て、別に悪気は。だいたい俺だって、あんな食べ方するなんて思ってなかったんだ」 「言い訳なんて結構です。お菓子をくれなかったらどうするか。ちゃんと言ってありましたよね?」 「待ってくれ。うちには甘いものなんてないんだ! だから……」 かぼちゃ頭が沈黙する。 まるで俺をどうやって殺すのかを考えているかのように。 「な、何でもする! だから殺さないでくれぇ!」 「それなら、最後のチャンスをあげます」 懇願する俺に、かぼちゃ頭はそう宣言すると俺の頭を跨いでくる。 頭がマントの中に入り、一瞬何も見えなくなった。 「な、何を……」 闇に目が慣れると、黒マントをわずかに透けてきた蛍光灯の光でかろうじてものが見えるようになる。 黒マントの中、数十センチ先にあるのは、さっきも一瞬見た少女の未成熟な性器。 マントの中に篭る、甘ったるいミルクのような少女の体臭に頭がクラクラする。 「お菓子がないなら、別のことで私をもてなしてください。  わかるでしょう? お兄さんは“大人”なんですから」 縞模様のニーソに包まれた膝が曲がり、少女のそこが近づいてきた。 「あ、待て……」 制止の言葉を遮るように、少女のそこが俺の口を塞いだ。 「死にたくないんでしょう? それとも、生きたまま心臓を抉り出されてみますか?」 少女が何を望んでいるかはわかったが、すぐにそれに従えるほど俺の順応力は高くなかった。 そんな俺を急かすように、少女は俺の胸に指を置く。 今にも服を突き破って、皮膚の下まで潜り込んできそうなその感触に、  俺の中でその行為を躊躇わせていた何かが音を立てて切れた。 「ふふ、そうですよ。一生懸命やってくださいね。気持ち良くなかったら……」 マント越しで少しだけくぐもった少女の声を聞きながら、俺は一心不乱に舌を動かした。 足を開いていてもまだ閉じ合わさっている割れ目に舌先を割り込ませ、 開いた隙間を舌全体で舐め上げる。 まだ小さな肉粒を見つけて、そこを固くした舌先で転がすことも忘れない。 「その調子です。あは、最初からこっちにすれば良かったですね」 割れ目の奥から、俺の唾液とは違うトロリとした液体が染み出してくる。 舌で舐め取ると、それは文字通り蜜のような粘度と甘味をもっていた。 「やっと素直になってくれたみたいですから、ご褒美をあげますね」 胸に置かれていた指が離れ、代わりに股間にその指が触れてきた。 ジッパーを下ろす音。 トランクスがずらされると、外気に撫でられた俺のそこがビクンと震えるのがわかった。 死の恐怖と、無理矢理とはいえ見た目だけなら年端もいかない少女の性器を舐めているという事態に、 俺の性器がすでに異常に昂ぶっているのが自覚できる。 「こんなに大きくしてるなんて、お兄さんはお馬鹿さんな上に変態さんですね」 クスクスと笑う少女の視線を感じて、さらに血液が集まっていく。 そこへ体温を感じさせない冷やりとした少女の細い指が絡み付くと、 得も言われぬような快感が込み上げてきた。 「私が気持ち良かった分だけ動かしてあげますから、がんばってくださいね」 少女は言葉通り、俺が大きく舌を動かすとその分刺激を強くしてくれる。 いつしか俺は無理矢理やらされているわけでなく、自分の快楽欲しさに、舌を動かし始めていた。 それに応えるように少女の蜜も量を増し、 もはや舌で舐めるだけでは追い付かず、口を窄めて啜り上げても間に合わないくらいになっている。 マントの中に充満した、頭の芯を痺れさせるような少女の体臭も一層濃密になり、 夢を見ているような浮遊感が全身を包んでいった。 希薄になっていく現実感の中で、ただ一つ、鮮明に脳を揺さぶるのは股間から送り込まれる快感。 腰の裏に、欲望の塊が溜まっていくのがわかる。 爆発するのはもうまもなくだった。 「ビクンビクンしてきましたよ。もう限界なんですか?」 少女が手を離す。 中断された行為に抗議するように、続きをねだるように、俺は舌の動きを激しくさせた。 「あは、あははは、そんなにガツガツしてると、みっともないですよ」 舌を尖らせて、少女の中へと挿入する。 中で乱暴なまでに舌をくねらせて刺激するのに、いつまでたっても少女は指を戻さない。 もどかしくてもどかしくて、いてもたってもいられなくなった。 ただひたすら行為の再開を願って舌を動かしていると、少女の性器が位置を変え始めた。 体勢を変えようとしているのだ。 俺の頭の上で起こしていた上半身を、ゆっくり前に倒していく。 それに合わせて少女の性器がより下向きになって舐めやすくなった。 「最後は特別サービスですよ」 俺の股間の方から少女の声が聞こえてくる。 ペニスにかかる、指とは対照的に熱の篭った少女の吐息。 次の瞬間、刺激を待ちわびていたペニスが温かい粘膜に包まれた。 舌先で感じた少女の中にも似た感覚。 ただ、敏感になったそこで感じる少女の口内は、ぬるぬるとして燃えるように熱く熱く――、 「きゃっ!?」 突然エビのように身体を跳ねさせた俺に、少女が驚いたように飛び退いた。 「な、何するんですか!?」 ペニスに走る激痛に、いきなりの反撃に抗議の声を上げる少女に構っている余裕もない。 まだろくに動かない身体で、それでも打ち上げられた魚のようにジタバタとのたうち回った。 俺の暴君が暴君のせいで! さっきまでの夢見心地も一瞬で吹き飛んだ。 「バ、バカヤロウ、お前、口の中、ヤバイって」 「ん? あー、そうですね。確かに口の中、まだヒリヒリしてますからね。  でもそれは自業自得でしょう?」 「うおおー、死ぬ、もげる、焼けるぅっ!?」 「もう、仕方ありませんね」 呆れたように、というより100%呆れた声でそう言いながら、少女の指が俺の首に触れる。 チクリとした痛み。 次の瞬間、全身を貫く激痛が薄れ始めた。 それと同時に意識も一気に闇に落ちていく。 俺は、死ぬのか……? 痛みから解放された俺の脳裏に、そんな考えがよぎる。 「殺したりはしませんよ。しばらく寝てれば、起きた時にはそれも治まっているでしょう」 遠くなっていく少女の声。 「せっかく気持ち良かったのに、興醒めしてしまいました。ですから、私も今日はこれで帰ります」 瞼を上げていられなくなり、視界が闇に包まれる。 「続きは来年。お菓子は、用意しておかなくてもいいですから」 それが俺が意識を失う前に聞いた、最後の少女の声だった。

<目次へ> <第2話へ> 動画 アダルト動画 ライブチャット