前回の襲撃から2日後、デュラハンの少女は森の中で憎きあの青年とは別の相手と対峙していた。
黒馬に跨った彼女を取り囲んでいるのは、数にして10匹程度の妖魔だ。
土色の肌と長く伸びた鼻と耳。
背丈は少女とさほど変わらない程度ではあるが、極端な猫背のせいでさらに小さく見える。
ゴブリンと呼ばれるこの低級妖魔はデュラハンよりもはるかにありふれた存在であり、主に人里近くに群れをなして住み付き略奪を行うことで知られていた。
とはいえ個々の力は決して強くなく、多少腕に覚えのある者ならばよほどのことがない限り遅れを取ることはないだろうという、そんな存在。
「おとなしく言うことを聞きなさい。
 さもないと痛い目を見ることになるわよ」
果たして彼らに人語を解するだけの知能があるのか疑問に思いながら、少女は居丈高に告げる。
威嚇の為に長剣を引き抜き天にかざすと、磨き抜かれた刀身が木漏れ日を反射して煌いた。
全身鎧と長剣で完全武装した少女に対し、ゴブリン達はいつから着けているのかわからないほどボロボロになった布切れを申し訳程度に腰に巻き付け、その手にはサビの浮いたナイフや棍棒と呼ぶのもおこがましいほどの石塊を持っているだけだ。
誰の目にも明らかな、歴然たる格の違い。
前回までは昼も夜もなく青年に襲撃をかけていた彼女が、今こうしてゴブリン達と向き合っているのには彼女なりの目論見があってのことだった。
(悔しいけど、このままじゃ埒があかないし……)
彼に対し、少女は最初の出会い以来一矢報いることすらできていない。
なにせあの見えない壁の攻略法を見つけないことには、一泡吹かせるどころか触れることすらできないのだ。
それ故のこの行動。
彼女はまずはこのゴブリン達を従えて、自分の代わりに彼を襲わせるつもりだった。
もちろんこの程度の低級妖魔がいくら数に任せてもどうにかなるとは思っていない。
それでも彼が戦うところを第3者視点から観察し、攻略法の糸口ぐらいは見つけることができるかもしれないと、そう考えたのだ。

「ココ、オレタチノナワバリ……オマエ、ヨソモノ」
リーダー格なのか、他の者に比べればわずかではあるが体格に勝る1匹がたどたどしく言葉を紡ぐ。
聞き取りにくくはあっても、一応は会話が可能なことに少女は安堵を覚えた。
言葉が通じなくとも従わせることぐらいは可能だろうが、その後のことを考えると言葉が通じるに越したことはない。
「そんなことは関係ない。
 あなた達はあたしの言うことに従えばいいの」
もう一度一方的に要求を突き付ける。
その声音からは、それがさも当然だと言わんばかりの自信が滲み出ていた。
デュラハンとゴブリンという、1対10という数の差を考慮しても十分にお釣りがくるだけの圧倒的な格の違いが少女の背中を押しているのだ。
「……コトワル」
それ故、短い沈黙の後に放たれたリーダー格のこの言葉に、少女は思わず耳を疑うことになった。
いくら知能が低いとはいえ、いや低級であればこそ本能的に格の違いというものを感じているはずなのだ。
何かの聞き間違いではないかとも思ったが、その言葉を証明するように彼女を包囲しているゴブリン達がわずかにその輪を狭めたことでその可能性は否定された。
にわかに周囲の空気が張り詰めていく。
「そう……なら仕方ないわね」
応じるように、要求を拒絶された驚きからわずかに見開かれていた少女の瞳が細まり、その全身から剣呑な空気が放たれ始める。
(おとなしく従わないなら、力づくで従わせればいいだけ)
言葉の問題もあり、元々そちらの可能性の方が高いだろうとすら思っていたのだ。
軽い驚きこそあったものの、そうなったところで別に何か問題があるわけでもない。
何匹か適当に切り捨てれば、残りは従わざるをえないだろう。
(戦意をくじくならリーダーを狙うべきだろうけど、言葉が通じるのがあいつだけだと後が面倒だし……)
そんなことを考えながら馬上で周囲を見回して適当な標的を選ぶ。
一通り見渡した後、精神的に接続されている愛馬に心の中で指示を送り、リーダー格の次に体格のいいゴブリンとその周囲に狙いを定めた。
「行け!」
主の裂帛の気合を受けて黒馬が疾走を開始した。
体に伝わる振動と蹄が土を打つ音。
一瞬で狭まっていく距離にゴブリン達が動揺している気配が伝わってくる。
(今更後悔したって遅いんだから)
少女は心の内にほくそえむ。
この調子なら手にした長剣を振るう必要すらないだろう。
このまま馬を走らせ、文字通り蹴散らしてやればそれで終わり。
その、はずだった。

「――ッ!?」
多少の震動こそあれ、走っている馬の上とは思えないほど安定していた視界が、少女からすれば何の前触れもなく突如回転した。
宙に投げ出されたことすら自覚できないまま、それでも回る視界の中で愛馬が突っ伏すようにして地面に崩れ落ちそのまま空気に溶けるように消えていくのが見て取れる。
直前まで黒馬の体があった場所には、今は両端に重りとなる石を括りつけた粗末な縄が残されていた。
原始的なその道具が馬の足に絡み付き転倒させたのだ。
(あんなの持った奴なんて……)
混乱する頭の中でとっさに思ったのはそんなことだった。
その間も止まることなく回り続ける視界。
その中で包囲の向こう側の木陰に、それを投擲しただろう別のゴブリンがいることに気がついた。
(油断――した!)
この状況を生み出した原因を把握し、そこでようやく不自由な空中でなんとか体勢を立て直そうとする。
だがそれはほんの一瞬だけ遅かった。
次の瞬間地面に叩き付けられた衝撃が、少女の体を貫いたからだ。
少女の身体は全身を覆う強固な鎧に守られている。
だが逆にその鎧の重さが衝撃を倍増させる結果となり、デュラハンの少女は全身を叩きのめされた。
あまりの衝撃に一瞬だけ制御を失った手から頭部が零れ落ち、その勢いのままに地面を転がっていく。
天と地が目まぐるしく入れ替わり、脳が攪拌され何がなんだかわからなくなった。
それがようやく止まった後、最初に少女の目に飛び込んできたのは、ここぞとばかりに全員で向かってくる低級妖魔達の姿。
その手にある石塊が自分めがけて振り下ろされる。
それが少女が最後に見た光景だった。

(冷たっ!?)
不意に頭頂部を襲った冷たさに少女は目を開けた。
「ここは……」
本来が夜に属する存在ゆえに、暗闇の中でも不自由しない視覚が、そこを周囲が岩に囲まれた洞窟だろうということを教えてくれる。
先ほど襲った冷たさは、どうやら天井から滲み出した水が滴り落ちてきたせいらしい。
鼻を突く饐えた異臭。
頭部は地面に直接置かれており、体の方は少し離れた場所に寝かされていた。
その体には気を失う前に纏っていたはずの鎧はおろか、その下に着ていた服すらも残らず剥ぎ取られている。
その状態で腰の後ろで両手両足をまとめて縛り上げられていた。
そこだけ見れば少年と見まごうばかりの平坦な胸も、透けるように白い腹部の中心に慎ましやかに咲いたへそも、そして辛うじて彼女の性別を主張する無毛の性器も曝け出され、それどころかそれらを見せつけるように背を反らした体勢を強制されている。
そのことに羞恥とそれに勝る憤りを覚えながら、それでも気を失う前のことを思い出し、とりあえず命があったことに安堵した。
ゴブリン達の粗末な武器でも、気を失っている状態で頭部に受ければそれは無視できるものではない。
気絶する原因となった石塊での一撃のせいかこめかみのあたりに痛みが残ってはいるが、それ以外の場所からは目だった痛みは感じ取れなかった。
体と違って頭部の方は本当にただ地面に置かれているだけだ。
いざとなれば頭部だけでも行動できるということをゴブリン達は知らないらしい。
(バカにして……!)
周囲に見張り役の姿もないことに、まず最初に思い浮かんだのは悔しさだった。
もちろん冷静に考えればゴブリン達が油断しているこの状況はありがたいことではあるが、デュラハンの少女からしたらはるかに格下のはずの相手に見下されているという事実が我慢できなかったのだ。
(絶対目にもの見せてやるんだから……)
新たに増えた復讐の相手に闘志を燃やしながら、まずはそのためにその気持ちをむりやり押し込めて脱出の算段を始める。
意識のない間に運び込まれたこの洞窟の構造がわかるはずもないが、少なくともこの場所は行き止まりになっていた。
一方のみ開かれた道の先からは、曲がり角の向こうで姿は見えないが複数のゴブリン達の気配と会話と思しき音が聞こえてきている。
何を言っているかわからない耳障りな金切り声。
恐らくこれこそが彼らの本来の言葉なのだろう。
手足に力を込めてみるが、さすがにそこまでバカではないらしく縄を引き千切ることはできそうにない。
ゴブリンの気配に注意を払いながら首だけで宙を移動し間近で結び目を確認したが、どう見ても解くときのことなど考えずに縛られたとしか思えないそれは口だけでどうにかなるものではなさそうだった。
洞窟の中にしてはかなり広いこの場所なら、愛馬を実体化させることさえできれば彼だけでもゴブリン程度蹴散らすことはできるはずだろう。
だが、その為にはせめて腕が自由に振るえないといけなかった。
(やば……)
どうしたものかと思案に暮れていると、聞こえてくる金切り声が大きくなってきたことに気付き、慌てて目を覚ました時に置かれていた場所まで戻る羽目になった。
首だけでも行動できることを知られていないらしいというのは現状では数少ない彼女のアドバンテージであり、ぎりぎりまで知られずに済まさなければならない。
やがて姿を現したのは個体の見分けなどつかない数匹のゴブリンと、肌や耳など体の特徴は同じでも他のゴブリン達とは2倍ほども違う巨躯を持った妖魔だった。
(こいつが本当のリーダー……)
その姿に少女はなぜゴブリン達が自分に従わなかったかを理解した。
力だけで言えば、1対1で戦ってこの群れの主に負けることなど万に一つもないだろう。
だがゴブリン達は純粋な上位種であるホブゴブリンを自分達の主として認め、彼女の要求を撥ね付けたのだ。
加えて、原始的ながらも道具を用い、それを持たせた個体を伏兵として配置するなどという戦法ができたのも、ゴブリンに比べれば多少は知能のあるホブゴブリンが率いていた群れゆえだった。

「こんなことして絶対許さないんだから!」
地面スレスレからホブゴブリンの巨体を見上げ、少女は鋭く言い放つ。
不利な状況にあっても弱気を見せるのは彼女のプライドが許さなかった。
その様子を見下ろしながら、ホブゴブリンは口の端を醜く歪めながら言葉を紡ぐ。
「オマエ、ヨワイクセニナマイキ……キイテイタトオリ」
森の中で対峙したあのゴブリンよりはまだマシといった程度の発音。
だがその言葉の内容に少女は一瞬で頭の中が沸騰するのを自覚した。
反射的に頭だけで飛びかかりそうになり、すんでのところでそれだけは抑え込んだ。
その怒りを紛らわす為に、音がするほど強く奥歯を噛み締める。
それを見た相手が再び唇の形を歪めたことで、それがホブゴブリンにとっての笑み、しかもあからさまに侮蔑の意味を込めたものだと確信した。
「ナマイキナオンナ……タノシイ……ダカラ、オキルマデマッテタ」
また笑う。
けれどそれは今までのものとはわずかに色が異なる笑みだった。
その目に宿る嗜虐的な光にほんの一瞬少女は戦慄し、すぐにその思いを振り払う。
わざわざ生かしたまま――すでに1度は死んだ身ではあるが――連れてこられた以上相手が自分に対して何かをしようとしているということはわかるし、それが自分にとっては嬉しくない類のことだろうということもわかった。
頭に過るのはあの青年に捕まった時に受けたくすぐり責め。
思い出しただけでも、ぞわりと全身の肌が粟立つあの時の堪え難い掻痒感。
形のいい眉を小さく顰めながら、少女は自分を襲うこれからの仕打ちに対しかすかな不安を覚え始めていた。
ゴブリンが、例えば人間の女性をさらってきた場合することとして真っ先に思い浮かぶのはその旺盛な食欲を満たすことだ。
悪食で、腹が空けば何でも口にするゴブリンにも好みというものはあるらしく、特に人間の女子供を好んで狙うと聞いたことがあった。
けれどいくらデュラハンが外見的には首のこと以外人間のままとは言っても、ゴブリンのエサになったデュラハンの話など聞いたことがない。
(いったい何をする気……?)
その不安を助長するように周囲の空気が変わった。
ホブゴブリンが口を開く度に増していった、周囲を漂う獣臭。
それが、まるで腐った果実のような甘すぎるほど甘ったるい別の臭いに上書きされていく。
やがてずるずると何かを引き摺るような音が聞こえ始めると、さすがにデュラハンの少女も自分の中の不安を認めざるをえなくなってしまっていた。

1匹のゴブリンに先導されるようにして目の前に姿を現した異形の存在に、少女は言葉もなくその視線を釘付けにされた。
それは一見したところ赤黒い、見るからに触り心地の悪そうな肉でできたミミズのような存在だ。
ただそのサイズが尋常ではなかった。
天井の高さ、横幅共に、馬が暴れるのにも十分なほどの広さを持つ洞窟が、そいつ1匹で半分近く塞がれている。
「コイツ……オレタチノペット」
そう言うと、ホブゴブリンはその巨大ミミズを連れて来たゴブリンの頭を片手で掴み軽々と持ち上げる。
「オマエオソイ……ダカラバツ」
金切り声を上げ足をばたつかせるゴブリンを、彼の主は腕の振りだけで放り投げた。
放物線を描くゴブリンの飛ぶ先には巨大なミミズが待ち構えている。
「ひっ!?」
突然巨大ミミズの先端が大きく開き、内部の鮮やかなピンク色をした粘膜が少女の目に飛び込んできた。
ホブゴブリンの巨体すらひと呑みにできそうなその大口は、飛来してきたゴブリンが通過すると次の瞬間には開いた時を上回るほどの速度で閉じられてしまう。
(あ、ああ……)
ミミズの表面が波を打つようにグネグネと動く。
厚い肉越しに聞こえてくるくぐもった叫び声。
耳を塞ぎたくとも体は遠く、手足も縛られていてはそれも適わない。
「アイツナンデモクチニイレル……デモイマハアジミ」
ホブゴブリンによる聞きたくもない解説。
そんな状態がどれほど続いただろうか。
中からの悲鳴も力を失った頃、ミミズが口を小さく開きそこからゴブリンの体が勢いよく飛び出してきた。
その体は地面を転がり、そのまま壁に激突してようやく止まる。
かろうじて息はあるらしいが、彼が転がった道筋にはナメクジの這ったような跡が残り、全身にまとった透明な粘液が彼が受けた仕打ちを何よりも雄弁に物語っていた。
どうやらその粘液から放たれているようで、周囲に充満していた甘い腐臭がより一層強くなる。
「アイツ、メスシカクワナイ……ダケドオオグイデ、ニンゲンヤゴブリンノメスダト、イチニチモモタナイ」
目の前で繰り広げられた光景と、加えてそのホブゴブリンの説明。
「オマエナラ、キットイッシュウカンクライハモツ」
それまでは表面上だけでも保っていられた強気の仮面が剥がれ落ちていく。
「や、やだ……」
その声は自分でも情けないほど震えていた。
けれどそれを気にしている余裕すらない。
右手で少女の頭を鷲掴みにして持ち上げ、そのまま歩き出したホブゴブリンが悠然と向かう先には、縛られ地面に横たえられた自分の体。
逃げようにも手足が使えない状態では、それこそミミズのように地面を這う程度しかできるはずもない。
滑稽に地面の上で這い逃げる少女の体に易々と追いつくと、まるで元からその為にある取っ手のように、ホブゴブリンは腰の後ろで束ねられた少女の両手両足を左手だけで掴み上げた。
「ソレニ、フツウノメス、スグニシズカニナッテツマラナイ……ダカラオマエ、ピッタリ」
ホブゴブリンの太い腕が後ろに引かれ、焦らすように一拍の溜めを挟んで前へ――、
「いやああああ!」
森の中でも1度感じた浮遊感に全身を包まれる。
頭が自由になっていたなら、体が描く放物線軌道を変えるために何も考えず飛び出していただろう。
けれど、今や頭皮に食い込むほどの力を込められた太い指でがっしりと固定されてはそれすらも適わなかった。
巨大なミミズが、その体がそのまま裏返るのではないかと思うほど大きく口を開く。
前回は一瞬に感じられた開口動作が、今回はまるでスローモーションのようにゆっくりと感じられた。
内部の粘膜表面には少女の指先ほどの大きさの突起がおびただしい数存在し、誘うように揺らめくそれらの間で粘液が糸を引く様子すらはっきりと視認できる。
体感的には永遠にも似た長い長い時間。
だがそれにもやがて終わりが訪れた。
開く時同様これもまた実際には一瞬の出来事なのだろうが、少女の目にはゆっくりと閉じられていくように見える口の向こうに自分の体が消えていく。
「――――――!!」
言葉にならない少女の悲鳴が洞窟の中に木霊した。

「いやいやいやきもちわるいぃぃ!」
全身が、その表面を粘液に覆われた生温かい粘膜に包まれる。
その感触に生理的な嫌悪感と、食われるという恐怖が爆発的に膨らんだ。
そしてホブゴブリンが味見と呼んだ行為が始まると、内部は外から見た以上の過酷な状況なのだと思い知らされる。
四方八方、まさにあらゆる方向から粘膜が擦りつけられてくる。
力が加えられる場所は目まぐるしく移動し、次にどこが狙われるのか全く予想がつかなかった。
口を開いた時に見えた突起がうごめくと、まるで無数の舌に舐められているような錯覚に襲われる。
胸を舐められたかと思えば脇腹に、膝に来たかと思えば次の瞬間にはへそをほじられた。
体を逃がそうとしても、一分の隙なく包囲された体に逃げ道はなく、反対側の粘膜に自分から体を押し付ける形になるだけだ。
そして極上のエサを捧げられたそちらの粘膜に手厚い歓迎を受けるはめになる。
荒れ狂う激流に放り込まれたようなその巨大ミミズの“味見”に、少女は為す術もなく翻弄された。
「お、おねがい、やめさせて。
 お願いだからぁ……」
恥も外聞もなく滂沱の涙を流しながら懇願する。
このままでは目の前の巨大ミミズの体の一部になってしまうのだ。
もはやデュラハンであるプライドなど、どこにも残ってはいなかった。
「ムリダ……イチドクチニイレタラ、アイツガジブンデハキダスイガイニデルホウホウハナイ」
「そ、そんなぁ……ひぁぁ!?」
ホブゴブリンの残酷な言葉に絶望した直後、それまで気色悪さとわずかなくすぐったさに包まれていた全身に変化が生まれた。
(な、なにこれ……?)
胸や下腹部を中心に、それまでのくすぐったさとは微妙に異なるむず痒さが生まれ始めたのだ。
その感覚に導かれるように、腹の奥、その存在を持ち主にすら忘れ去られていた器官が自己主張を開始する。
「アジミ、オワッタ……コレカラガホンバン」
ホブゴブリンの言葉通り、ミミズの動きもそれまでとは異なるものへと変化していた。
全く無作為にうごめいていた内部突起の動きに、明らかな方向性が生まれつつあることを少女は体感していた。
胸のあたりの突起達は、周辺の肉を掻き集めるように動きつつ、そうやってできたわずかな膨らみをもっと育てとばかりに揉み捏ねる。
少女は幼くして人でないものと化し、時の流れから取り残された。
それ故永遠に形成されるはずがなかった双丘が、本人の意思を無視して作られる。
それは本当にわずかな、膨らみかけたという表現すら過剰なほどのわずかな傾斜だ。
なのにそこを執拗に舐め上げられると、その奥からじんわりとした熱が込み上げ周囲に広がっていく。
そしてその中心、本人の知らぬ間に固く立ち上がった小さな蕾に内部突起がそれぞれ巻き付き――、
「ひぃぅっ!?」
胸を揉み解される初めての感覚に戸惑う少女を嘲笑うように、胸の中心でいきなり鋭い感覚を弾け、彼女は声を上擦らせた。
目の奥で火花が散ったような、そんな感覚。
一方で巨大ミミズの方は少女のその敏感な反応に気を良くしたように、新たな責めを繰り出していく。
最初の時のように巻き付いてから一気に引くことで摩擦したかと思うと、今度はその果実が生意気にも体積を増していくことを非難するように複数の内部突起が頭を押し付けてくる。
「いひぃぃ!!」
それまででも堪え難い激感を生み出していたその場所を、しかし今までの行為がほんの遊びだったと思えるほどの鮮烈な刺激が貫いた。
少女からは見えるはずもないが、内部突起は巨大ミミズの本体のようにその先端に口を開くことができたのだ。
あつらえたようなサイズのその口に、完全にしこり立った場所を含まれ吸引される。
胸の奥、もう動いてはいない心臓が吸い出されそうなほどの強烈な吸引に少女は惑乱した。
「や、やめ……それ、いやぁ!」
次々に襲ってくる経験したことのない行為に、唯一巨大ミミズの外にいる少女は舌を突き出すようにして喘ぐことしかできない。
涙と唾液の雫が宙を舞い、見る見るうちに地面に小さな水溜りを作っていった。

少年のようだったそこをむりやり女として目覚めさせられた胸とは別に、もう1箇所内部突起の責めが集中している場所があった。
この行為が始まる前から、唯一彼女が女であること主張していた場所。
もちろんまだまだ成熟とは縁遠く、ピタリと閉じ合わさった1本の線に過ぎなかったその場所にも多くの内部突起が殺到していた。
最初の内は揉み捏ねるように頭を押し付けていた突起達だったが、しばらくすると胸のものと同じく口を開き少女の白く滑らかな肌に吸盤のように吸い付いていく。
下腹部にある1本の縦筋の左右に吸い付いた突起達が左右に引かれていくと、それまで頑なに閉じていた少女の秘された場所が観念したようにその姿を現していった。
誰の目にも触れたことのなかった淡い桃色の粘膜が、無遠慮な突起達の新たな標的にされる。
粘膜同士が触れ合う感覚に、少女の背筋に怖気が走った。
我先にと先端を押し付けてくる突起達。
その内の1本が、割り広げられた花弁の上端にある小さな膨らみを掠めていった。
「いいいぃぃぃっ!」
掠っただけ。
それだけで、理性を吹き飛ばすほどの衝撃が少女を襲う。
巨大ミミズの体内で、捕われの少女の矮躯がビクンと跳ねた。
少女にとっては不幸なことに、その拍子に体積と硬度を増し包皮からその頭を覗かせつつあったその敏感過ぎる赤真珠が完全に剥き上がってしまう。
ずっとそこを守ってくれていた包皮がずり下がっていくことですら稲妻に打たれたような激感に襲われる。
そこへその衝撃から覚めるのを待つこともなく、待ち構えていたように口を開いた内部突起が吸いついてきた。
剥き出しになった淫核が再び粘膜に包まれる。
けれど新たな鞘の目的は、前の鞘とは正反対のものだ。
優しく包んでいたのも束の間、胸の時同様に強烈な吸引が開始されると、そこから生まれる衝撃はわずかに残っていた少女の理性を吹き飛ばすには十分過ぎるほどだった。
腹の奥から煮えたぎるほど熱い蜜が湧き出していく。
それに誘われるように別の突起が、それ自身がまとった粘液と、そして量としてはまだ少なくはあるが確かに少女の側が分泌した蜜液を潤滑油にして体内へと潜り込んでくる。
「いやぁ……入ってこないでよぉ……」
外側だけでなく内側まで蹂躙される恐怖に、少女の口から弱々しいうわ言のような言葉が零れ落ちる。
そして、その懇願は完全な形ではないが叶えられた。
巨大ミミズの内部突起のサイズは、太さ長さともに少女の小指の第一関節まで程度だ。
それ故痛みはなく、入りこんだ突起はそれ以上進めないことを悔しがるように浅い場所でうごめいているだけ。
ただそれだけに体の内側まで触れられているということを否が応にも実感させられてしまう。
吐き気を催すその感覚は、けれどすぐに別のものへと塗り替えられていった。
膣内の浅い場所、突起と触れ合っている粘膜が熱を持ち、ジンジンと疼き始めて堪らなくなる。
胸の時にも起きた、けれどそれよりも劇的な変化。
(もう、やだぁ……)
ここまで来て、少女にもこのカラクリがようやくわかりつつあった。
巨大ミミズの体内で分泌される透明な粘液。
あれが性感などとは縁がなかった少女すらも女として開花させる作用を持っていたのだ。
少女のその推測を証明するように、遅れ馳せながら全身の肌からもその疼きが生まれ始めている。
皮膚のすぐ下を遠火であぶられているような感覚に、全身から汗が噴き出していくのが自覚できた。
普通なら珠となり肌を滑り落ちていくはずのその汗は、今は生まれてすぐに突起に舐めとられていく。
香しい汗の対価とばかりに突起から与えられるのは、より一層少女を昂ぶらせるための媚薬粘液。
腹の奥に生まれていた熱が刻一刻と成長していく。
内臓を引き絞られ、そこから何かが搾り取られていくような錯覚。
一瞬、ほんの一瞬だけ、突起が浅い部分までしか入ってきてくれないことがもどかしく思えた。
(あ、あたし、いま、なにを……)
白濁した意識の中で、それでも自分が一瞬とはいえそんなことを考えたことが信じられなかった。
体だけでなく心まで作り変えられようとしている。
そのことに恐怖を覚える暇もなく、また巨大ミミズの体内で新たな動きが生まれていた。
細かい内部突起とは別の何かが皮膚の表面を這い始める。
腰の後ろで手足を束ねられているせいで、腋の下や折り畳まれた足の間は、それまで全身を包む内部突起の責めから逃れられていた。
そこヘその何かがむりやりその先端を捩じ込んでくる感触に、少女の心は新たな動揺を余儀なくされる。
巨大ミミズの体内に小さな別のミミズが住み付いているのかと、最初そう思った。
小さなと言っても太さは彼女の手首ほどはあり、長さに至っては見当もつかない。
むりやり右腋の隙間を抉じ開けて潜り込んできて、それからかなりの時間敏感なそこを摩擦されているのにいまだに終わりが来る気配すらなかった。
そうしている間にも別のものなのか、それとも右腋を通過したものと同じものなのかはわからないが左の腋にも潜り込んでくる。
動きを止めようと締め付けてみても粘液に包まれたそれは苦もなく動きまわり、それどころか喜ぶようにその身を細かく震動させた。
やがて両膝の裏をまとめて通過したそのミミズの先端が、本来の目的だろう場所へとたどりつく。
席を譲るように、浅く膣内に潜り込んでいた内部突起が退いていった。
「い、いや、そんなの……」
恐怖のあまり歯がガチガチと鳴るのを止められない。
目的地の場所など最初からわかっていたはずなのに、あえて焦らすように腋の下や足の隙間を通過したのはその太さを自分に見せ付け恐怖を煽るためだったのではないか。
ゴブリン程度の知能すらなさそうな外見のこの怪物から、少女はそんな悪意すら感じ始めていた。
「ぁ、あく……ぅ……」
そんな彼女の内心などお構いなしで、そのミミズが少女の体内へと侵入を開始する。
内部突起達によって解されていたとはいえ、そのサイズはあまりにも少女の矮躯には不釣合いだった。
媚薬粘膜の効果すらもその挿入には力及ばず、一瞬ではあるが3点への吸引責めによって強制的に引き出される快感すらも吹き飛ばされる。
入口だけで、もう全身が引き裂かれるような激痛に襲われた。
だが、内部突起と違い十分過ぎる長さをもったそのミミズの侵攻は入口だけでは止まらない。
「い、いた、いたいいたいいたいぃ!」
痛みを紛らわせるように叫び続ける少女。
聞こえるはずのない、体が内側から引き裂かれる音すら聞こえてくるようだった。
体内の異物感は1秒ごとに増していき、それにつれて痛みもまた天井知らずに高まっていく。
長い時間ののち、ようやく膣内のミミズが動きを止めた頃には、もう少女の口からは悲鳴すら生まれなくなっていた。
膣どころか体内の全てがミミズに占領されたような圧迫感。
最奥まで到達し、我が物顔で居座っていたミミズが今度は逆にその身を引いていく。
それを身をもって感じ取りわずかな安堵を覚えたのは、ほんの一瞬だけだった。
「は、いぃ……そんな、そんなぁ……」
ミミズ自身が分泌し膣内にくまなく塗り込められた媚薬粘液が、挿入時には役に立たなかったことへの汚名返上とばかりにその力を発揮し始めたのだ。
ミミズ表面の微細な凹凸と膣襞によって媚薬粘液と愛液が攪拌された。
それに加えて少女の体を外から責め嬲っていた内部突起達もここぞとばかりに動きを激しくする。
内臓全てが下がっていくミミズと一緒に引き摺り出されていくような錯覚と、敏感な3つの突起を中心に全身で爆発的に高まっていく快感。
(こ、こんなの……おかしくなるぅ……)
痛みに占拠されていた頭の中で、1度は退いていた快感が息を吹き返し、少女の思考の余地を奪い去っていった。
そこへ追い討ちとばかりに、入口まで下がっていたミミズがまたも進行方向を逆転させる。
(な、なんでこんなに……)
2度目の挿入は、前回とは全く違った感覚を少女の頭へと刻み込んでいった。
痛みはまだある。
むりやり体内を押し広げられていく感覚。
それでもその裏側に、内部突起に入口だけ掻き混ぜられた時に一瞬だけ感じた、そして今体内にいるミミズが下がっていく時にはもっとはっきりと感じたもどかしさが解消された充足感が込み上げてきた。
1番奥、子を育む神聖な部屋の扉が醜悪なミミズの頭にノックされると、意思に反して体の方が扉を開いて迎え入れようとすらしてしまう。
「あ、ああ……」
そして物理的に不可能なその行為の代わりとでも言うように、ミミズの先端から濃厚な、それが全身から滲み出しているものとは比べ物にならないほど濃厚な液体が注ぎ込まれてくる。
その瞬間、少女の体内で子宮が沸騰した。
「あ、あああ、ああああああ!」
煮えたぎる鍋と化した子宮が、体の支配権を脳から奪い取っていく。
主の地位を追われた脳は、もはや新たな主から与えられる快感を享受するだけの隷属器官になった。
そのことを絶望することさえもうできない。
この快感だけがあれば他に何もいらなかった。
「いひゃああ、はげしい、はげしすぎるぅ!」
完全に恭順した獲物を祝福するように、ミミズの動きが激しくなる。
それまでは単純な前後動だけだったものが、膣内で身をうねらせ、ねじり、スピードにも緩急をつけて叩き込まれた。
その全てがこれ以上ないほどの至福感をもたらしてくれる。
小柄な体躯が破壊されそうなほどの抽送を受け、少女の初めての性の頂きがもう目前に迫っていた。

「ふぇ……?」
とめどなく溢れる歓喜の涙で滲んだ視界が、不意に赤黒い肉筒でその大半を塞がれる。
今も彼女の体を呑みこみ食事を続ける巨大ミミズにも似たその外見。
鼻を突く饐えた異臭に強制的に意識を呼び戻された。
「オマエ、イイコエデナクカラ、オレモコウフンシテキタ」
何年ぶりかに聞くような、ひどく懐かしいその声の主は彼女の頭を掴んでいるホブゴブリンのものだった。
巻いていた布切れを取り去った腰から屹立した醜悪な肉塊こそが、今少女の視界を塞いでいるものの正体だ。
「んぷぅ……」
涙と唾液でベトベトになった口元を、その猛りの先端にむりやり押し付けられる。
最初に感じたのは火傷しそうなほどの熱と、そして鉄のような固さだった。
それでいて肉の柔らかさも持ち合わせている奇妙な触感。
下級妖魔の排泄器官も兼ねた生殖器を顔に押し付けられているのに嫌悪感すら湧いてこない。
「クチ、ヒラケ……」
あいかわらず聞き取りにくいその声に、少女は言われるまま口を大きく開けた。
とはいえ、果たして少女が本当にホブゴブリンの言葉に従って口を開けたのか、それともただ単に、今もまだ体に与え続けられている快感によって新たな喘ぎ声をあげようとしただけなのかは当の本人にもわからない。
しかしホブゴブリンにとってはそんなことどちらでも良かったのだろう。
少女が口を開けたという事実だけが彼が必要としたことだ。
あごが外れそうなほど開かれたそこに、いきり立った生殖器を容赦なく捩じ込まれる。
その巨躯に相応しく猛々しいその塊に、限界だと思われていた少女の口がそこからさらに割り開かれていった。
それでも先端の凶悪なまでにエラの張った亀頭部分を口に含むのがやっとといったところで奥まで到達してしまう。
口を塞がれ、喘ぎは唾液の泡となって接合部から弾けて消えた。
「コイツ、チイサスギル」
その状態から前後に動かそうとしていたホブゴブリンだったが、腰を引こうにも返しが引っかかって全く抜けないことに気がついた。
「グヌゥ……」
完全に固定されてしまったことに唸っていたホブゴブリンだったが、なんとか動かそうと思考錯誤する内にある方向になら動くことを発見する。
「グフ……コレダ……」
前にも後ろにも動かない少女の頭部。
唯一動くのは回転方向だけだった。
棒の先で皿を回すように、片手で少女の頭を回転させ、それと同時に空いた手で自ら竿の部分を扱き上げていく。
体に与えられる快感に反応して窮屈な口内でも絶えず動きまわる柔らかい舌と、それとは対照的に固く滑らかな上あごの感触が、限界まで膨張した亀頭の表と裏を入れ替わり立ち替わり摩擦していく快感にホブゴブリンは没頭した。
耳障りな笑い声をあげながら、扱く手の動きを加速させていく。
欲望の赴くまま、彼が頂点を迎えようとしたその瞬間だった。
少女の舌が痙攣したように張り詰め、あごが外れることもいとわない力強さでホブゴブリンのペニスを口内から押し出してしまう。
「ああああああああ!!」
暴虐的な肉凶器から解放された少女の口から、獣じみた叫び声が迸る。
発情しきった体に一方的に送り込まれていた快感が、ついに少女の限界を突破した瞬間だった。

半ば白目を剥くようにして、初めての絶頂を味わう少女に新たな洗礼が浴びせられた。
直前まで咥え込まされていた肉筒の先端から、黄みがかった白濁液が火山の噴火の如き勢いで溢れ出す。
むせるほどの性臭を放つその汚濁液は空を舞い、狙い済ましたように少女の頭部へと降り注いだ。
繰り返し繰り返し、膨大な量吐き出されるホブゴブリンの精液はあっという間に小さな頭をコーティングしていく。
半ば固形状の粘液が、頬を、鼻筋を滑り落ち地面に溜まった少女の体液と混ざり合い淫猥な臭いを周囲に充満させた。
「グフゥ……」
長い射精を終え満足げな吐息をつくと、ホブゴブリンは口の中にも当然流れ込んできた苦味にわずかに眉を顰めた少女の頭部が無造作に放り投げた。
ホブゴブリンの大きな手の平から解放された少女の頭部は、湿った音を立てて地面に落ちしばらく転がってからようやく止まる。
その状態になってもまだ地面の上で弱々しく喘ぎ続ける少女の頭部を見下ろし、ホブゴブリンが彼らの中だけで伝わる言葉で何かを告げた。
爆発的に高まる歓声。
それまで見ているだけだったゴブリン達が金切り声をあげ、少女の頭部に殺到し始めた。
走りながら腰のボロ布を剥ぎ取りペニスを晒していく。
大きさこそホブゴブリンのものと比べれば随分小さなそれは、しかしその数だけ見れば圧倒的だ。
ある者は主と同じように少女の口に自身のものを捩じ込んだ。
別の者の中には柔らかそうな頬に擦り付ける者もいれば、きめの細かいブロンドを一房掴みそれをペニスに巻き付け扱き始める者もいる。
その狂宴は次々に現れる新たなゴブリンが尽きるまで続き、一方でその間も少女の体から力を吸収し続けていた巨大ミミズがその食事を中断したのはそれからさらに後のことだった。

性欲を満たし、眠りこけるゴブリン達の只中で、少女はゆっくりと瞼を上げた。
ゴブリン達が全員満足し、巨大ミミズの方もその動きを止めたことでようやく与えられた休息。
だが、その体は今もまだ巨大ミミズの体内にあった。
腹が空いたらすぐにでも食事を再開させるためだ。
少女の力を最後の1滴まで残さず搾り取ろうとするその貪欲さに戦慄を覚えながら周囲の気配を探った。
最後の方では常に絶頂状態にあるようなものだった意識にはまだ厚い霞みがかかっていて、しかも今も全身の肌に張り付いている粘膜の感触が集中を妨げようとする。
そんな状態では普段ほどの精度は期待できるべくもなかったが、それでも周囲に動いている存在は感じられなかったことに息をついた。
慎重に、ゆっくりと浮かび上がるとあごや髪の先から白濁液がぼたぼたと滴り落ちる。
そのかすかな音すらもゴブリン達を起こすことになるのではないかと恐怖し、下級妖魔相手にビクビク怯えるそんな自分に絶望した。
そんな思いを意識的に振り払い宙を滑るように移動していく。
呑み込まれたままの体は、頭だけではどうしようもなかった。
もしゴブリンの内の1匹でも目を覚ましたら。
もしくは、今は微動だにしない巨大ミミズがまたわずかでも空腹を感じたら。
激しい不安に襲われながら、それでも少女の頭部はしばらくの飛行ののち洞窟からの脱出に成功した。
あの青年の場所を教えてくれる金属球はもうない。
剥ぎ取られた鎧や衣服と一緒にどこかに保管されているのかもしれないが、さすがにそれをさがしているだけの余裕なんてあるわけがなかった。
外へ出ると限界まで高度を上げ、人間の集落を探す。
(あった……)
最後に彼を見たのは、あの集落に入っていくところだった。
当然今もまだそこにいる保証はなく、仮にいたとして彼に助けを求めるなんて虫が良過ぎると自分でも思う。
そう思うと不意に目頭が熱くなり、じわりと視界が滲んだ。
それでも頼れるのはもう彼しか思い浮かばなかったのだ。
涙の雫を風に散らしながら、少女はその集落に向け移動を開始した。

<第1話へ> <目次へ> 動画 アダルト動画 ライブチャット